・地球社会の未来を拓(ひら)く宇宙利用であることを忘れてはならない。

・宇宙基本計画には「地球の安全保障」という概念を取り入れるべきだ。
・「地球の安全保障」とは、地球が晒(さら)されている脅威に対して必要な対策を講じ、人類の生存基盤である地球そのものの安全を保障するものである。
・巨大化した人間の活動は、二酸化炭素の大気中濃度を上昇させ、窒素肥料の合成量が自然界の空中窒素の固定量を超えるなど、地球の基本的条件に影響を与え始めている。
IPCC気候変動に関する政府間パネル)の第5次統合報告書では、温暖化対策を強化しない場合、21世紀末の平均気温は最大4・8度上昇し、海面は最大82センチ上昇すると予測されている。
・地球の把握には、宇宙からの観測が不可欠である。
・地球規模課題は温暖化対策だけではない。 防災、資源、エネルギー、環境、食糧なども重要なテーマである。
・重要なことは、その観測データを分析してより価値の高い情報として活用することである。
・地球社会の未来を拓(ひら)く宇宙利用であることを忘れてはならない。









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2014.12.24 05:01更新
【正論】
「地球安保」強化する宇宙開発を 三菱総合研究所理事長・小宮山宏

 本年9月に開催された宇宙開発戦略本部での首相指示を踏まえ、首相への諮問機関である宇宙政策委員会において、宇宙基本計画の改定作業が進められている。 11月には内閣府宇宙戦略室により、新「宇宙基本計画」とその工程表の素案が公表された。
 今後10年間で45機程度の衛星などの打ち上げが盛り込まれている。 公表された素案への国民からの意見募集を踏まえ、近く新たな基本計画が制定される見通しだ。
≪地球環境を宇宙から監視≫
 地球温暖化問題をはじめとした地球規模問題の解決は人類喫緊の課題である。 宇宙基本計画には「地球の安全保障」という概念を取り入れるべきだろう。
 ここで「地球の安全保障」とは、地球が晒(さら)されている脅威に対して必要な対策を講じ、人類の生存基盤である地球そのものの安全を保障するものである。
 巨大化した人間の活動は、二酸化炭素の大気中濃度を上昇させ、窒素肥料の合成量が自然界の空中窒素の固定量を超えるなど、地球の基本的条件に影響を与え始めている。その結果、安全保障の主体は国家から地球へと拡大したのである。
 先月公表された、IPCC気候変動に関する政府間パネル)の第5次統合報告書では、温暖化対策を強化しない場合、21世紀末の平均気温は最大4・8度上昇し、海面は最大82センチ上昇すると予測されている。
 このような世紀末を迎えないためには、積極的かつ効果的な温暖化対策が求められるのだが、その前提として、現在の地球の置かれた状況のより正確な把握と現象の理解を深めることが必要である。
 具体的には、地球モデルを精緻化し、観測データと組み合わせることで、科学的根拠に基づく将来予測を進めなくてはならない。
 地球の把握には、宇宙からの観測が不可欠である。
 地上で得られる観測値は点のデータであり、宇宙からの観測はそれらを繋(つな)ぎ合わせる面のデータを提供でき、これらを統合することによって精度の高い全体像を得ることができるからである。
≪幅広い課題に踏み込むべきだ≫
 例えば、わが国の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」によるデータが、大都市における化石燃料消費による二酸化炭素濃度の地域的上昇を捉えている可能性があることが、ごく最近発表されたところである。
 地球規模課題の解決にむけた民生分野の宇宙利用としては、
気象衛星「ひまわり」後継機や「いぶき」後継機が今回の工程表案に盛り込まれているほか、
光学とレーダーによる地球観測衛星を継続的に運用することも謳(うた)われており評価できる。
 一方、地球規模課題は温暖化対策だけではない。防災、資源、エネルギー、環境、食糧なども重要なテーマである。こうした幅広い地球の安全保障に対する衛星の寄与という観点から、もう少し踏み込んだ書き込みと、国際社会に対するわが国の貢献がアピールされてもよいのではないかと考える。
 宇宙基本計画は、わが国の宇宙開発利用を進めるうえでの最も基本となる計画である。
 現行の宇宙基本計画は平成25年に策定され、「安全保障・防災」「産業振興」「宇宙科学等のフロンティア」の3つの課題に重点が置かれている。 今回の改定は、わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増したことを踏まえて行うもので、公表された素案では、宇宙政策の目標の筆頭に「宇宙安全保障の確保」が掲げられている。またその内容も、踏み込んだ記載となっている。
≪観測データの価値ある活用を≫
 例えば、安全保障用途での測位、通信、情報収集などのための宇宙システム利用を拡大するとし、一部調整中だが具体的な計画として、情報収集衛星の機数増、データ中継衛星の活用による情報収集能力の強化、Xバンド通信衛星を現行の2機計画から3機へ拡充するとしている。
 こうすることで、外部からの妨害などに対する耐性や機密保持能力の高い衛星通信網ができるという。
 さらに、準天頂衛星の7機体制を確立し、安全保障上の活用を検討するとされる。
 今回、工程表案に記載された45機程度の打ち上げのうち、安全保障用途は20機にも上り、宇宙利用の「出口」の一つは安全保障環境の担保であるという明確なメッセージが読みとれる。
 衛星機数を増やし「地球を見る目」が増えることは評価したい。
 しかしさらに重要なことは、その観測データを分析してより価値の高い情報として活用することである。そして、この価値の高い情報とは何かが重要な論点となる。
 もちろん国家の安全保障のための情報は重要である。
 しかし同時に、
 持続可能な社会に向けたスマートな暮らしや街づくりを支えるシステムとして宇宙からの目を活用すること、さらに地球規模課題解決、すなわち地球の安全保障のための情報も重要なのである。
 地球社会の未来を拓(ひら)く宇宙利用であることを忘れてはならないのだ。(こみやま ひろし)