・本来の企業統治は、利益を高めて賃上げなどを含む社会的な責任を果たすことにある。その実行には経営者本人の意識改革も問われている。

・日本経済を成長させるには、その牽引(けんいん)役となる企業が「稼ぐ力」を取り戻さなければならない。
・企業が「稼ぐ力」を取り戻し、収益力を高めることで賃上げや雇用拡大を通じ、自律的な経済成長につなげる必要がある。
・海外と比べて日本企業の利益率は総じて低い。株主の資金をどれだけ有効活用したかを示すROE(株主資本利益率)は、欧米企業が10%台半ばなのに対し、日本企業は8%程度にとどまる。
・海外の機関投資家からみると「日本企業には稼ぐ力が足りない」と映る。
・「日本の大手企業はこの15年、一貫して雇用を減らしており、雇用維持が低い利益率の理由にはならない。稼ぐ力を高めなければ、将来の成長のための投資もできない」
・本来の企業統治は、利益を高めて賃上げなどを含む社会的な責任を果たすことにある。その実行には経営者本人の意識改革も問われている。










〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
2014.12.28 13:30更新   【日曜経済講座】
「稼ぐ力」取り戻し経済再生を 企業統治進化の1年 
論説委員・井伊重之

 日本でコーポレートガバナンス企業統治)を強化する動きが広がっている。 経営の監視役となる社外取締役をめぐり、大手企業の多くで導入が進んでいるが、金融庁などは複数の選任を求める指針案をまとめた。
 日本経済を成長させるには、その牽引(けんいん)役となる企業が「稼ぐ力」を取り戻さなければならない。  それを促すのが企業統治と位置づけ、企業の成長に向けた「攻めのガバナンス」が問われる時代を迎えている。
 この1年はコーポレートガバナンスが大きく進化したといえる。
 今年6月に改正会社法が成立し、社外取締役を選任しない大手企業に対し、その理由を開示するように義務付けた。こうした動きに合わせて経団連会長を輩出したような大手企業が一斉に社外取締役を導入した。
 1年前まで経団連社外取締役の義務化に強く反対していたのとは様変わりだ。
 なぜ社外取締役が重要なのか。それは「社外の目」で経営を監視し、成長を促す役割を担うからだ。
 過去の経営のしがらみから離れ、不採算事業からの撤退や新規事業への進出など、いま必要な経営判断を取締役会で求めて企業を活性化させる。自分を登用した社長らに遠慮しがちな社内役員にはできない仕事だ。
政府は成長戦略にも企業統治の強化を盛り込んだ。
 安倍晋三政権は、アベノミクスで日本経済の再生を目指している。それには企業が「稼ぐ力」を取り戻し、収益力を高めることで賃上げや雇用拡大を通じ、自律的な経済成長につなげる必要がある。
 成長戦略では企業活動を後押しするため、法人税減税や規制改革も打ち出した。  政府が企業を支援する以上、その経営陣には利益を生む経営に取り組んでもらわなくてはならない。
 企業統治の強化で社外取締役の導入を促し、経営陣の尻をたたいてもらおうというわけだ。
 政府が企業統治の強化に取り組むのは、日本企業の「稼ぐ力」が低下しているとの強い危機感もある。
 実際、海外と比べて日本企業の利益率は総じて低い。株主の資金をどれだけ有効活用したかを示すROE(株主資本利益率)は、欧米企業が10%台半ばなのに対し、日本企業は8%程度にとどまる。
 海外の機関投資家からみると「日本企業には稼ぐ力が足りない」と映る。
 産業界には「日本企業の利益率が低いのは長期的な経営を重視し、雇用維持を優先しているからだ」との反論が根強い。
 だが、日本取締役協会副会長を務める冨山和彦・経営共創基盤CEOは「日本の大手企業はこの15年、一貫して雇用を減らしており、雇用維持が低い利益率の理由にはならない。稼ぐ力を高めなければ、将来の成長のための投資もできない」と統治強化の必要性を強調する。
 社外取締役をめぐっては、複数の導入を促す取り組みも進んでいる。
 金融庁東証が検討してきた企業活動の指針「コーポレートガバナンス・コード」の原案では、上場企業に2人以上の社外取締役を求めたほか、取締役の選任方法などを開示することを盛り込んだ。株式持ち合いの目的の説明なども求めている。
 東証1部上場企業で社外取締役を選任するのは7割を超えた。だが、複数の社外取締役を置くのは全体の3分の1にとどまる。指針案で複数の配置を求めたのは、1人では取締役会で孤立する恐れがあるからだ。2人以上を選任することで、社外取締役が思い切った改革を提言しやすくする狙いがある。
 東証は今後、この案を基に上場規則を改定し、来年以降の株主総会で各企業がどこまで指針を採用するかの開示を求める方向だ。あくまで指針なので強制ではないが、投資家が投資先を選ぶ際の重要な判断材料となる。
 株主である投資家にも企業統治の強化を求める動きが本格化している。 金融庁は2月に機関投資家の行動原則として「日本版スチュワードシップ・コード」をまとめ、投資先企業の経営情報の把握や建設的な対話、顧客への報告などを求めた。
 11月末までに生命保険会社や年金基金など175社が受け入れを表明した。
 もともとは英国で始まった制度だが、日本版では投資先企業の中長期的な成長に向け、積極的な経営を促す狙いがある。
 これまでの企業統治というと、法令順守(コンプライアンス)の徹底ばかりが強調されてきた。
 しかし、本来の企業統治は、利益を高めて賃上げなどを含む社会的な責任を果たすことにある。その実行には経営者本人の意識改革も問われている。