・オバマ政権の、「話し合い」重視で何もしない政策が、中国だけでなく、中東など世界各地に混乱の種をばらまいてきた。

・大きな問題はサイバー攻撃南シナ海の2つだ。  米連邦職員と元職員2150万人の個人情報と数十億ドル分(約数千億円)相当の米企業秘密がサイバー攻撃でハッキングされた。
・スプラトリー(南沙)諸島で人工島の建設、軍事化を正しいと認める国などは世界でも稀(まれ)だ。
・地域的覇権主義、最終的には世界大国になろうとしているライバルにはより強力な措置が必要だ。
・具体的には、南シナ海の人工島から12カイリの領海に米艦船を入れ、国際水域であることを示す。
・情報を盗んだ中国企業には制裁を科す、である。
・行動に出ないのを相手の弱点と計算する中国は既成事実を積み重ねるので、違法の線を明確にし、誤解の余地を与えてはならない!
オバマ政権の、「話し合い」重視で何もしない政策が、中国だけでなく、中東など世界各地に混乱の種をばらまいてきた。









〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2015.9.30 05:02更新   【正論】
猜疑心かき立てる米中首脳会談 杏林大学名誉教授・田久保忠衛

 案の定、米中首脳会談は不首尾に終わった。 両国がぶつかり合う主要なテーマは、サイバー攻撃南シナ海問題の2つだ。  前者は、米連邦職員と元職員2150万人の個人情報と数十億ドル分(約数千億円)相当の米企業秘密がハッキングされたという。
 歴史始まって以来、これ以上の大規模な窃盗事件はない。ところが、オバマ大統領も習近平国家主席も閣僚級の「ハイレベル対話」を創設することで合意した。失礼ながら笑わざるを得ない。

≪かなぐり捨てた「韜光養晦」≫
 習主席は共同記者会見で、あたかも人ごとのように「両国は協力を拡大し、紛争を回避しなければならない」と語っていた。
 言論、報道の自由を厳重に制限し、反体制派を徹底的に弾圧する一党独裁政権がハッカーの正体を知らないはずはなかろう。オバマ大統領は習主席を追い詰めていない。
 後者は自国の主張を言い合っただけで、何の妥協もなかった。大統領は記者会見で「率直に話し合った」と述べたから、激しく迫ったのだろうと思われる。
 スプラトリー(南沙)諸島で人工島の建設、軍事化を正しいと認める国などは世界でも稀(まれ)だろう。
 にもかかわらず習主席は「南シナ海の島々は太古から中国の領土だ。自国の領土主権と合法的で正当な海洋権益を守る権利がある」と記者会見の場で言い放った。
 昨年11月の首脳会談で軍同士の信頼醸成措置を構築するとの合意はでき、それに基づいて国際空域での軍用機行動規範は公表された。が、肝心の南シナ海に適用されるかどうかは決められていない。
 そもそも中国は、国際社会と協調して国を運営するのだと称し、「平和的台頭」を目指した筈(はず)ではなかったか。
 米政権はニクソン大統領以来、中国に適用してきた、国際社会のあらゆる分野に関係させようという関与政策が効果を上げ始めたと判断したのだろう。
 ブッシュ政権2期目のゼーリック国務副長官は「ステークホルダー(利害共有者)になってほしい」と呼びかけた。にもかかわらず中国はトウ小平氏が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」(姿勢を低くして強くなるまで待つ)をかなぐり捨ててしまった。

≪米紙の痛烈なオバマ批判≫
 米中首脳会談で改めて明白になったのは、サイバーテロ南シナ海、人権問題を批判する米国とそれに異を唱える中国との対立の構図だ。
 南シナ海に特定すれば、国際海洋法に従えと要求する米国に対し、中国は紀元前の常識を持ち出して対抗しようとする。
 「太古の時代」の領土を通用させようとしたら、世界が大混乱に陥ることなどは念頭にないらしい。
 国際合意は口先だけで、領土問題はあくまで2国間で解決すべしと説いてきた外交は、強力な軍事力を誇示して戦わずして勝つ戦略、孫子の兵法ではないか。
 豹変(ひょうへん)した中国に対して、相変わらず責任ある「ステークホルダー」になってほしいと要請し続けてきたのはオバマ政権だ、と痛烈な批判をしたのはウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙だ。
 会談当日の社説で保守系のこの新聞は、地域的覇権主義、最終的には世界大国になろうとしているライバルにはより強力な措置が必要だと説く。 これは敵対あるいは戦争よりも、協力のほうがはるかに得るところが多いと中国側に悟らせるためだという。
 具体的には南シナ海の人工島から12カイリの領海に米艦船を入れ、国際水域であることを示す。情報を盗んだ中国企業には制裁を科す、である。行動に出ないのを相手の弱点と計算する中国は既成事実を積み重ねるので、違法の線を明確にし、誤解の余地を与えてはならないと説く社説は説得力に富む。

≪安心できない尖閣問題≫
 オバマ政権の、「話し合い」重視で何もしない政策が、中国だけでなく、世界各地に混乱の種をばらまいてきた。WSJ紙はオバマ大統領を見放し、次期大統領に経済の回復と太平洋への展開を伴う防衛の再建を期待している。
 習主席はシアトルとワシントンの公開の場で「新型大国関係」を口にし、オバマ大統領はこれを事実上、黙認した。これまでにも同様の場があったが大統領は拒否していない。
 中国は紛争や対決の回避、核心的利益や主要な利害関係などの相互尊重、ウィンウィンの協力など6原則を示している。問題は中国が、「核心的利益」に尖閣諸島を入れているかどうかだ。

 一昨年4月に中国外務省副報道官は「核心的利益に属する」と述べ、速記録からこの部分を削除した。副報道官が失言したのであればその説明があるべきだが、ない。
 オバマ大統領が尖閣諸島日米安保条約の対象になると明言したから「心配無用」とのんきに構えていいか。いつか米中関係が好転したときに、中国側が1972年の上海共同コミュニケで台湾を扱ったように解釈の相違を認めようではないかと、持ちかけないともかぎらない。

 米中関係は日本の運命を左右する。猜疑(さいぎ)心を抱くなというほうが無理だ。(たくぼ ただえ)