南シナ海の「航行の自由」を脅かす自由をどの国にも与えない!

・「軍事、民生利用を問わず恒常的な変更を与える一方的行動を自制すべきだ」
南シナ海は、米国の世界戦略、海洋戦略にとって核心的な利益が存在する場所である。
・米国がいっているのは、南シナ海の「航行の自由」を脅かす自由をどの国にも与えない、ということだ。









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2015.11.27 05:01更新 【正論】
「航行の自由」こそ核心的利益だ 大阪大学大学院教授・坂元一哉

 米国は先月27日、駆逐艦ラッセン南シナ海に派遣し「航行の自由作戦」を開始した。南沙諸島のいくつかの岩礁を大規模に埋め立てて人工島を造り、滑走路など軍事利用可能な施設を建設している中国を強く牽制(けんせい)するための軍事行動である。

≪米国の決意は固い≫
 オバマ米大統領は、中国政府に対し、習近平国家主席が9月の訪米時に共同記者会見で述べた、人工島を軍事化しないという約束を守るよう求めている。だが中国政府はこの問題は域内諸国で解決すべきで、域外の米国は緊張を高めるな、という主張を繰り返すばかりである。問題が平和的解決に向かっているとはいい難い。
 今週初めに開かれた東アジア首脳会議では、各国首脳から、中国の行動を懸念する声が上がった。安倍晋三首相は「深刻な懸念」を表明したうえで、「軍事、民生利用を問わず恒常的な変更を与える一方的行動を自制すべきだ」と主張している。
 たしかにこの問題の平和的解決のためには、中国に「自制」してもらうしかない。すなわち人工島の軍事化を諦めるとともに、それが明らかになるようにしてもらうしかない。それなしに、米国が軍事行動の圧力を緩めるとは考えにくいからである。
 太平洋とインド洋をつなぐ南シナ海は、米国の世界戦略、海洋戦略にとって核心的な利益が存在する場所である。もし米国が、この海における中国の無法ぶりをこのまま許すとなれば、周辺諸国はもちろん、世界中の国が、米国はその力の主要な源泉である海洋コントロール能力を失った、と見るだろう。そうなれば、米国の世界指導国としての地位は、根底から揺らぐ。
 もとより、いまの米国は内外多難である。また、米国が中国との軍事衝突を望んでいるはずもない。だがこれまでの中国の行動を見れば、軍事力を示さずに、言葉だけで南シナ海における米国の国益を守れないのは明らかだ。オバマ大統領としても、そう見極めた上での軍艦派遣と思われる。米国がこの軍事行動にかける決意は固いと考えるべきだろう。

≪中国は冷静な見極めを≫
 中国にとって、自制は容易でないことかもしれない。南シナ海には、戦略核装備の潜水艦を配備したり、シーレーンの安全を確保したり、石油などの海底資源を開発したり、といった中国にとっての軍事的、経済的利益が存在する。
 また、この海から米国の影響力を排除し、台湾問題の有利な解決に役立たせるという政治的利益もあろう。そうした利益のために、また国内外で面子(めんつ)を守るためにも「米国の圧力で自制した」とはいわれたくないはずである。
 だが、だからといって自制せず、米国と軍事的に衝突する危険を冒すのは、中国にとって、きわめて不合理なことだ。いま中国が米国と軍事的に衝突すれば、力の大きな格差から見て、中国は多くを失い、「中国の夢」が壊れるのはもちろん、共産党体制の存続にも赤信号が点滅しかねない。そうなっては元も子もないだろう。中国政府には、そのことの冷静な見極めが必要である。
 中国政府はこれまで、口では米国との「新型大国関係」に基づく協調を唱えながら、米国という超大国の核心的利益に対して、鈍感なところがあったように思う。 尖閣諸島をめぐる日本への挑発もそうである。この挑発は、米国の東アジアにおけるプレゼンスを支え、米国の安全保障の「要の一つ」(オバマ大統領)である日米同盟に対する挑発にもなる。これをどう考えているのか。

≪平和的解決を遠ざける誤解≫
 南シナ海についていえば、米国は、中国政府の高官が2010年3月に、この海を「中国の核心的利益」だと初めて公言すると、その7月にはクリントン国務長官に、「米国は南シナ海でのアジアの海洋公共財への自由なアクセス、航行の自由、国際法の順守を国益とする」と明言させている。その後も折にふれ、米国にとっての南シナ海の「航行の自由」の重要性を強調してきた。
 中国に米国と事を構える準備と決意があるのなら別である。だがそうではなく、むしろ協調を求めているのに、なぜ中国は米国の核心的利益に鈍感なのか。まったく理解に苦しむ。
 あるいは中国は、米国がいう南シナ海の「航行の自由」の意味を誤解しているのかもしれない。この海に人工島を造って、それを軍事化しても、すべての国の航行の自由を妨げなければそれでいいのではないか、という誤解である。
 そういう誤解は、平和的解決を遠ざけるだけだろう。米国がいっているのは、南シナ海の「航行の自由」を脅かす自由をどの国にも与えない、ということだからである。
 中国政府には、この米国の真意をよく理解し、東アジア全体の平和と安全のためにも、行動を自制してもらいたい。その決断が早ければ早いほど、中国のためにもなると思う。(さかもと かずや)