「大国間競争の回帰が重要」と述べたが、この新しい材料は何を意味するか?

・北東アジアで暴走を続ける北朝鮮に対して中国が曖昧な態度を取れば取るほど日本、米国、韓国の軍事面での結び付きは強くなる一方だ。
・中国に真っ向から対立してきたフィリピンには小規模ながら米軍が戻ってくる。
・中国の恫喝にベトナムインドネシアなどASEANの対中警戒感はさらに強まる。
・北と特別の関係にある中国に依頼心を抱いたり、挑発しないよう気配りをしていたのでは何も解決しない。
・韓国が最終的に高高度防衛ミサイル(THAAD)の米日韓協力に踏み切った。
・「台湾人としてのアイデンティティー」「台湾は民主主義だ」「中国との関係は現状維持」は蔡英文台湾総統
・「日本の自衛隊が与那国に、米軍がフィリピンに戻ってくるのは何とも心強い」
・ワーク米国防副長官は新国防予算説明の中で、「大国間競争の回帰が重要」と述べたが、この新しい材料は何を意味するか。






〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2016.2.19 11:28更新  【正論】
中国・北朝鮮の危険な台頭に対し、ようやく新たな「潮流」 
杏林大学名誉教授・田久保忠衛

■息づいてきたリバランス政策:
 動あれば反動あり。「平和的台頭」と称して「危険な台頭」に変じた中国に対して、オバマ米政権が打ち出したリバランス(再均衡)政策はようやく息づいてきた気がする。米カリフォルニア州で今週開かれた米・東南アジア諸国連合ASEAN)首脳会議での宣言は中国への牽制だ。
 中国が南シナ海に配備したと伝えられる地対空ミサイルも当然念頭に置いている。北東アジアで暴走を続ける北朝鮮に対して中国が曖昧な態度を取れば取るほど日本、米国、韓国の軍事面での結び付きは強くなる一方だ。
 先月の台湾総統選で民進党蔡英文主席が、中国との接近を進めた国民党に圧勝した事実は、リバランス政策全体の中でどれだけ戦略上、重要な意味を持つか。
 中国に真っ向から対立してきたフィリピンには小規模ながら米軍が戻ってくる。
 中国の恫喝にベトナムインドネシアなどASEANの対中警戒感はさらに強まる。
 北朝鮮が強行した「水爆実験」と「人工衛星」打ち上げ実験はこの国のインチキ性を世界に改めて露呈したが、米紙ウォールストリート・ジャーナル2月8日付社説はことの本質を2つ挙げた。
 1つは、米政府が中国を介して北朝鮮政策を続ける限り、「打ち上げの噂が何週間かにわたって広がり、あと発射、次いで国連安保理緊急理事会、そして何も生まれない」という状況が続くだろうとの指摘だ。
 北と特別の関係にある中国に依頼心を抱いたり、挑発しないよう気配りをしていたのでは何も解決しないとの直言だ。
 2つは、喜ばしいことに打ち上げによってついに韓国が最終的に高高度防衛ミサイル(THAAD)の米日韓協力に踏み切った、との皮肉だ。
 朴槿恵大統領の最近の言動を眺めていると、昨年9月に北京で開かれた抗日戦争勝利70周年記念式典に参加し、習近平主席との蜜月時代を誇示した同一人物とは思えない。同盟の基本は自国の生存を図るためにどの国と結ぶかの選択だ。北東アジアの安全保障は正常に戻った。
■国民党とは違う「現状維持」:
 台湾にも新しい状況が生まれつつある。新しい指導者に選ばれた蔡英文主席の外交・防衛に関するキーワードを3つ挙げろと言われれば、私は躊躇なく「台湾人としてのアイデンティティー」「台湾は民主主義だ」「中国との関係は現状維持」と答える。
 アイデンティティーには本省人だとか外省人という旧式の対立軸ではなく、台湾人としてまとまろうとの含意もあるが、蒋介石政権の弾圧下で独立を求めてきた先人たちへの思いも込められている。主席が民主主義をことさら強調するのは一党独裁の国とは違うとの主張だ。
 問題は現状維持だ。かつて民進党陳水扁総統は「台湾独立」を公言し、中国と米国の双方から締め上げられた。英国の植民地から独立した輝かしい歴史を持つ米国が独立に反対するのは妙な話だし、中国が台湾に向けて短距離ミサイルを展開し、1千基以上に増大している試みを黙殺して現状維持はなかろう。
 蔡英文主席は米中関係の複雑性を十二分に弁(わきま)えている。ただし、「私の言う『現状維持』は馬英九総統のやってきた『現状維持』とは異なる」と明言している。 交渉の内容を外部に知らせず、密室でことを運ぶかのように中国に接近してきた馬英九政権を批判する蔡英文主席の弁舌は痛烈だ。
 中国とは従来どおり平和的話し合いを続けながら、同主席は日米両国との経済関係を強め、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の方向を明らかにしている。
 中国との軍事バランスがとうの昔に逆転し、国民党も民進党もいつのころからか防衛に手を抜いてきた観がある。域内総生産(GDP)の2%強の防衛費を3%に上げていくとみられているが、これは専ら対米配慮に基づくらしい。
■米軍展開の道が開けた:
 私は台湾の民間団体の要請で結成されている「国際選挙監視団」の一員として総統選を見てきた際、台湾の有力者何人かから「日本の自衛隊が与那国に、米軍がフィリピンに戻ってくるのは何とも心強い」と言われた。 選挙の直前にフィリピン最高裁判所は米比防衛協力協定(EDCA)は合憲であるとの判決を下し、スービック湾などに米軍が展開する道は開けた。
 海外での軍事介入を嫌ってきたオバマ政権ではあるが、
(1)米太平洋軍のハリス司令官は有事の際の尖閣諸島防衛を明言した(2)「航行の自由作戦」の一環として米イージス駆逐艦南シナ海パラセル諸島にあるトリトン近辺を航行した
(3)ワーク米国防副長官は新国防予算説明の中で、大国間競争の回帰が重要と述べた
−などの新しい材料は何を意味するか。
 米海軍は横須賀を母港とするロナルド・レーガンに加え、ジョン・C・ステニスの空母2隻体制に入っている。
 安倍晋三首相が牽引する日本は大きな潮流に乗って新しい役割を果たす時期が到来している。(たくぼ ただえ)