・政府は発行益付きで資金調達できる環境を生かして、民間に眠っている貯蓄を吸い上げ、成長分野に投入する「賢い」財政出動に撤すべきだ!

・「景気刺激策は尽きていない」、「財政政策と金融政策の融合」「紙幣を増刷して公共支出(または減税)を直接賄うヘリコプターマネーも選択肢の一つ」
チャイナリスクは深く広がり、収拾のメドが立たない。
・欧州は債務とデフレ圧力に苦しみ、格差がひどい米国では中低所得層が大統領選前哨戦を揺るがせている。
・2月末に上海で開かれた20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議は共同声明で金融緩和効果の限界を認め、財政出動を促した。
・日本は約2年前の消費税増税による後遺症を引きずり、アベノミクスは失速した。増税主義のメディアや学者たちはダンマリを決め込んでいる。
・財政を動員し、動かない巨額の余剰貯蓄を実需拡大につなげる政府の明確な意思がないことには、慢性デフレに慣れきった消費者や企業が動き出すはずはない。
・利益剰余金に比べて、設備投資や社員への報酬の伸びは低く停滞している。年間で20兆〜40兆円も増える利益剰余金を賃上げや設備投資に回せば景気拡大効果は絶大だ。
内需が不振で、外需の見通しが暗い中では経営者はカネ遣いに慎重になる。
・政府は発行益付きで資金調達できる環境を生かして、民間に眠っている貯蓄を吸い上げ、成長分野に投入する「賢い」財政出動に撤すべきだ!

・航空宇宙・防衛、基礎研究、人材育成など「財源の制約」に縛られてきた国家の土台を拡充すべきだ。











〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2016.3.6 11:00更新   【田村秀男の日曜経済講座】
増税延期」だけでは不十分だ マイナス金利をテコに財政出動

 経済政策論議はようやく、消費税増税の凍結と緊縮財政からの転換に向かってきた。問題はこれからだ。一過性の財政出動の後は元のもくあみのデフレに舞い戻る。安倍晋三政権はマイナス金利と連動した財政支出のプログラムを作成し、実行すべきだ。
 世界では長らく、財政出動を重視する「ケインズ主義」が疎んじられてきた。金融政策、規制緩和に傾斜した新自由主義が幅を利かせてきたのだが、新自由主義論壇を代表する英エコノミスト誌が豹変(ひょうへん)した。
 2月下旬、「景気刺激策は尽きていない」という論説を掲げ、「財政政策と金融政策の融合」「紙幣を増刷して公共支出(または減税)を直接賄うヘリコプターマネーも選択肢の一つ」と。
 無理もない。チャイナリスクは深く広がり、収拾のメドが立たない。欧州は債務とデフレ圧力に苦しみ、格差がひどい米国では中低所得層が大統領選前哨戦を揺るがせている。2月末に上海で開かれた20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議は共同声明で金融緩和効果の限界を認め、財政出動を促した。
 日本は約2年前の消費税増税による後遺症を引きずり、アベノミクスは失速した。増税主義のメディアや学者たちはダンマリを決め込んでいるが、安倍首相周辺は「消費税を増税しても景気は大丈夫、と言った者たちをリストアップしよう」と言い、一気に来年度予算成立後の増税再延期と大型補正予算の作成に前のめりになっている。
 当然の流れだが、拙論が危惧するのは、財政出動をいかに成長に結びつけるか、という財政版成長物語の欠如だ。ただ単に、当面の景気情勢がおかしいという理由だけで、消費税率10%への引き上げを再延期するだけでは、前回の先送り後が示すように景気への効き目はないだろう。
 財政を動員し、動かない巨額の余剰貯蓄を実需拡大につなげる政府の明確な意思がないことには、慢性デフレに慣れきった消費者や企業が動き出すはずはない。
 緊縮財政と金融緩和の組み合わせ効果は不発だ。日銀は年間80兆円の資金を創出して金融機関に流し込む。円安・株高を呼んでいるときは企業収益をかさ上げし、富裕層の金融資産を膨らませた。その富が個人の所得や消費に滴り落ちる「トリクルダウン」効果について、エール大名誉教授で内閣官房参与浜田宏一氏も「ちょろちょろとしている」と筆者に漏らしている。
 グラフはアベノミクス開始後の銀行・保険業を除く全産業の利益剰余金(使われずに残った利益の積立金)などの前年比増加額推移である。円安とともに剰余金は増え続け、円安の進行が止まった昨年の初めから増加幅が縮小したが、10〜12月期に反転した。エネルギー価格の下落に伴う企業のたなぼた利益によると推測される。
 利益剰余金に比べて、設備投資や社員への報酬の伸びは低く停滞している。年間で20兆〜40兆円も増える利益剰余金を賃上げや設備投資に回せば景気拡大効果は絶大だ。
 しかし、内需が不振で、外需の見通しが暗い中では経営者はカネ遣いに慎重になる。
 安倍首相が賃上げや、格差是正に向けた「同一労働同一賃金」を求めることも必要だが、内需が不振で、外需の見通しが暗い中では経営者はカネ遣いに慎重になる。
条件は整っている。日銀によるマイナス金利の最大の受益者は政府である。今月初め、10年物新規発行国債がマイナス金利になった。
 表面利率0・1%、額面100円の国債に101円25銭の値がついた。
 利子を払った後で100円あたり25銭の利益が政府に転がり込むわけで、これと同じ条件で10兆円分の国債を発行すれば政府に250億円の利益が転がり込む。
 買い手の金融機関が同額の損失を被るとの批判があるが、その金融機関は101円25銭より高い値で売れば利益を稼げる計算になる。
 日銀がマイナス金利政策を強化すれば、国債相場はさらに上昇するとの見込みが立つ。
 やみくもに国債を大増発せよというわけではない。
 政府は発行益付きで資金調達できる環境を生かして、民間に眠っている貯蓄を吸い上げ、成長分野に投入する「賢い」財政出動に撤すべきだ。
 その場しのぎのバラマキでは、企業や消費者を不安にさせる。
 航空宇宙・防衛、基礎研究、人材育成など「財源の制約」に縛られてきた国家の土台を拡充すべきだ。(編集委員