・2014年に踏んだブレーキによる内需減退分を挽回するには、財投債は1つの有効な手段だ!

・「ヘリコプター・マネー」論とは、中銀が国債を買切り、市場には売却しない。中銀の金利収入は政府に納入され、政府は債務を貨幣に変えることになる。その資金が金融市場を迂回(うかい)してそっくり家計や企業に渡る。
・08年9月にリーマン・ショックが勃発した。バーナンキFRB議長は巨額のドルを刷る量的緩和政策に踏み切った。
FRBが市場から購入する国債はいずれ金融機関など民間に売却される。政府は民間に金利を払う。政府の借金に変わりはない。それでも、米景気はそろりと回復していった。
・米国では株価が上がると家計が消費を増やすし、企業のほうは株式市場から有利な条件で資金調達し、設備投資するので雇用も増える。
・日本では量的緩和政策をやったが、2年前の消費税増税内需を減退させた。 愚かにも、アクセルとブレーキを同時に踏んだ。
・欧州ではそんな劇薬マネー・ヘリを日本に試させたいという本音が透けてみえる。
・財投債はインフラ整備を対象に政府が発行するが、政府系金融機関を通じて民間に貸し出されるので、通常の国債と違って政府債務としては扱われない。
・日銀が購入した財投債を含む国債を市場に売却しないと約束すると、国債はマネー同然となる。
・2014年に踏んだブレーキによる内需減退分を挽回するには、財投債は1つの有効な手段だ!










〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2016.5.1 11:00更新  【田村秀男の日曜経済講座】
財政・金融、窮余の一策 日銀版マネー・ヘリコプターは飛ぶか

 小学5、6年生だろうか。電車の中で、はしっこそうな男の子が父親に話している。
 「景気が悪いって大人は言うけど、簡単じゃない。日本銀行がおカネを刷って、みんなに配ればよいのに」。「そりゃむちゃだ」とお父さん。
 実は、この子の話は権威ある学説の裏付けがある。しかも、日本がこの政策を実行するのではないかと、世界の耳目を集めつつある。
 学説の創始者ノーベル経済学賞受賞のミルトン・フリードマン教授(故人)で、1969年に発表した。ヘリコプターからカネをばらまけと言うので、「ヘリコプター・マネー」論と呼ばれる。弟子のベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会FRB)議長は理事時代の2002年、同案をデフレ不況対策として提唱したことから、「ヘリコプター・ベン」というあだ名が付けられた。
 無論、ヘリからお札、というのは寓話(ぐうわ)である。
 実際には発券銀行である中央銀行がカネを発行して国債を買い切り、市場には売却しない。中銀の金利収入は政府に納入される。政府は債務を貨幣に変えることになる。その資金が金融市場を迂回(うかい)してそっくり家計や企業に渡る。
08年9月にリーマン・ショックが勃発した。バーナンキFRB議長は巨額のドルを刷る量的緩和政策に踏み切ったが、ヘリ・マネー政策ではない。FRBが市場から購入する国債はいずれ金融機関など民間に売却される。政府は民間に金利を払う。政府の借金に変わりはないのだ。
 それでも、米景気はそろりと回復していった。FRB資金は株価を押し上げる。野球ファンよりも個人株主数のほうが多い米国では株価が上がると家計が消費を増やすし、企業のほうは株式市場から有利な条件で資金調達し、設備投資するので雇用も増える。
 黒田東彦(はるひこ)総裁の日銀が3年余り前に踏み切った異次元緩和政策はFRB量的緩和政策そっくりだが、景気への効き目は米国に比べてかなり弱く、不安定だ。株価は円安とともに上がるが、円高になると下がる。
グラフを見よう。日銀は新規発行の2倍超相当額の国債を市場で購入し、年間約80兆円の資金を創出している。実質経済成長率は平成25年(13年)度に上向いたが、翌年度はマイナスに落ち込み、その後もゼロ・コンマ台で低迷している。景気は政府による公共投資(公的固定資本形成)がぐんと上積みされると刺激されるが、減った途端に冷える。おまけに2年前の消費税増税内需を減退させた。黒田総裁はマイナス金利政策を導入したのだが、成果が出るまでにはまだまだ時間がかかる。デフレ圧力が再燃すれば、アベノミクスは失敗とみなされ、安倍晋三政権の命運にかかわってくる。
 日本の窮状を見た米欧は、「ヘリ・マネーを導入したらどうか」とささやく。英エコノミスト誌が2月下旬に「日本のように途方に暮れた国」にはうってつけだと論じて以来、英米の金融専門家が口にする。
 米ウォールストリート・ジャーナル紙は4月16日に黒田総裁を直撃し、ヘリ・マネー導入の意思を引き出そうと試みた。2月に上海、4月にワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議は金融政策の限界と財政の重要性を強調した。安倍首相が議長となって、5月下旬に三重・伊勢志摩で開かれる主要国首脳会議(G7サミット)では財政支出拡大が主要議題になる。
 政府と日銀はヘリ・マネー政策に踏み切るだろうか。金融専門家には「悪性インフレを引き起こす」との異論が多い。財政と金融政策とも行き詰まった欧州ではそんな劇薬を日本に試させたいという本音が透けてみえる。黒田総裁もさすがに慎重だ。しかし、「ヘリ・マネー」と銘打たなくても、日本の財政・金融政策がそれに限りなく近づく公算はかなりある。
 安倍首相周辺では熊本地震対策としての補正予算に続いて、伊勢志摩サミット合意を受けた形で10兆円規模の大型補正予算を編成する検討が始まった。
 有力な財源案は、国債の一種である財投債の発行だ。財投債はインフラ整備を対象に政府が発行するが、政府系金融機関を通じて民間に貸し出されるので、通常の国債と違って政府債務としては扱われない。
 政府が財投債に限らず国債全般についてマイナス金利を生かせば、金利負担がゼロ以下になる。さらに日銀が購入した財投債を含む国債を市場に売却しないと約束すると、国債はマネー同然となる。さて、黒田総裁はどう出るか、ヘリに乗り込むだろうか。(編集委員