・“領土不拡大の原則”に基づく普遍的且つ平和的な方法こそが、20〜21世紀の正しいアプローチだ! 

・“領土不拡大の原則”に基づく普遍的且つ平和的な方法こそが、20〜21世紀の正しいアプローチだ! 
・ロシア側による北方四島の実効(de facto)支配が果たして何年間続こうと、それは法律上の(de jure)権利とは、別事である。 日本側は、一貫してこの立場に立つ。
ゴルバチョフ大統領もエリツィン大統領も、この立場を取った。


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北大名誉教授・木村汎 
四島返還は普遍的価値に根差す
2011.2.7 02:56

 昨夏来、ロシアのタンデム(双頭)政権による対日攻勢はすさまじい。メドベージェフ大統領の国後島上陸は攻勢のピークと思われたが、なおもそれは続いている。ロシアの動きに直面して日本側は何をなすべきなのか、「北方領土の日」にあたり考えてみたい。
 答えは、単純明快だろう。わが国の北方四島返還要求が正当な根拠に基づくものであることを再確認し、自信をもって返還運動を継続すること。これに尽きる。 私がそのように考える理由を、以下に記す。
 地球上の土地が有限である以上、領土をめぐる争いごとが発生するのは不可避である。問題は、一体、どのような原則に従って国境線を引くべきなのか? 大別すると二つの方法しかない。

≪法的権利に基づく日本の立場≫:
 一つは、平和的な方法。テーブルの上で話し合い、その交渉の結果、到達した合意に従う。領土を物理的に占拠しているだけでは「占有権」は発生しても、「所有権」の根拠とはならない。 ロシア側による北方四島の実効(de facto)支配が果たして何年間続こうと、それは法律上の(de jure)権利とは、別事である。 日本側は、一貫してこの立場に立つ。
 旧ソ連最後の指導者となったゴルバチョフ大統領も、ソ連崩壊に伴い継承国となったロシアの初代指導者、エリツィン大統領も、この立場を取った。前者は1991年の日ソ共同声明で、歯舞・色丹・国後・択捉の四島が日ソ間で未解決の係争地域であり、交渉対象であることを正式に宣言した。後者も、93年の「東京宣言」で同様のことを認めた。
 加えて、エリツィン大統領は東京宣言で、これら四島の主権帰属を決定する際に、準拠すべき定則が、次のものであることを承認した。
「(北方四島)問題を歴史的、法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決する」

 エリツィン氏により後継者に指名されたプーチン大統領は当初、前政権時代のイーゴリ・イワノフ外相の続投を認めていた。イワノフ外相は、プーチン政権期の2003年3月、下院で、日本との領土交渉に関するロシア政府の立場が次のものであると明言した。「われわれは、日本との間に国際条約や法秩序において確立された国境をもっていない。したがって、これらの問題が、日本との交渉の重要な構成要素となる」

≪武力決定論に転じた双頭体制≫:

 国境線画定のもう一つのやり方は、戦場での勝敗を尊重するというものだ。国境線は、戦争の結果として発生した実効支配によって決定されるという考え方であり、「勝てば官軍」に通じる危険思想である。
 武力で国境線が決定されることを認めるなら、それは終わりなき領土争奪の悪循環につながりかねず、第二次大戦終結時にソ連を含む連合国側が同意した、“領土不拡大の原則”にも違反する。
にもかかわらず、過去にも、例えば、ソ連のブレジネフ書記長などは「第二次世界大戦の結果は変更すべからず」と主張し、北方四島が日ソ交渉の対象であることを認めようとしなかった。
 大統領2期目に入るころから、プーチン氏(現首相)は自信をつけて独り歩きし始めた。まず、外相をイワノフ氏から自らに忠実なセルゲイ・ラブロフ氏に代えた。次いで国境線画定法に関するロシアの立場を変更した。ゴルバチョフエリツィンの両氏が採用した第一の方法を否定、第二の考え方に依拠する立場を明らかにし、2005年秋にこう述べた。
 「(北方四島は)現在、ロシア連邦の主権下にあり、これは第二次世界大戦の結果である」

≪19世紀的考え認めてはならぬ≫:
 メドベージェフ大統領は就任当初こそ、「リベラル」な指導者と騒がれたものの、少なくとも現時点におけるその対日政策はプーチン首相のそれと全く変わらない。メドべージェフ大統領が昨年9月に、北京で調印した中露共同声明は、「第二次世界大戦の結果を見直すことは許されない」と記しているし、同大統領は同年12月のテレビ対談で、「南クリール列島のすべての島はロシアの領土である」と明言している。
 以上のことから明らかになるのは、タンデム政権の2人の指導者が、第二の国境線画定法を採用していることである。それは、戦争結果を重視する「19世紀的」かつ危険な考えである。“領土不拡大の原則”に基づく第一の方法こそが、20〜21世紀の正しいアプローチである。

 戦後日本人が第一の方法で領土返還運動を行っていることは、単に北方四島の価値を超えて、普遍的な意味合いをもつ。そのような意義を担う返還運動をもし万一、われわれが断念し安易な妥協に同意するならば、どうであろう。世界の心ある人々は日本に対する尊敬を一挙に失って、「日本人=エコノミック・アニマル」説に回帰するに違いない。(きむら ひろし)