・「核抑止力」が米国に向けてである以上、ワシントン、ニューヨークに「キノコ雲」を立たせる能力を持たない限り、北朝鮮は「核抑止力」が完成したとはみなさないのだ! そのときが本当の核保有国になるのだ!

・三条 健です。
・2005年、北朝鮮は中朝国境に近い最大の鉄鋼産地、咸鏡北道茂山鉱山の開発・採掘権を中国に譲渡する契約を交わした。 すでにその時点で、経済面における北朝鮮の対中依存は、「身売り」に近かった。
6カ国協議はそこで合意に達するというよりも、米朝二国間合意を多国間で裏書きする場と化している。 
・中国の影響力に屈するようでは、北朝鮮の「先軍」外交は破綻する。  中国の影響力にもかかわらず、それに屈しないという頑(かたく)なな姿勢こそが、それまで米朝協議を可能としてきた。
・「核抑止力」が米国に向けてである以上、ワシントン、ニューヨークに「キノコ雲」を立たせる能力を持たない限り、北朝鮮は「核抑止力」が完成したとはみなさないのだ! そのときが本当の核保有国になるのだ!



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
北の対米恫喝は息子の代も続く
防衛大学校教授・倉田秀也 2012.1.30 03:10 [正論]
 北朝鮮金正日総書記の死から1カ月余。  超法規的な手続きも含めて、三男、金正恩氏への権力継承の速度には瞠目(どうもく)すべきものがある。 だが、金正日氏が恰(あたか)もまだ生存しているかのような錯覚に陥るのは、筆者だけではあるまい。
金正日氏が正恩氏に憑依?≫:
 北朝鮮の公式媒体は連日、金正日氏を金正恩氏に憑依(ひょうい)させるかの如く報じている。  「労働新聞」が元旦に掲載した共同社説でも、金正日氏の「遺訓」が強調され、「金正恩同志すなわち金正日同志」などの言説が踊った。  その上で、金正日氏の「先軍思想」の継承を謳(うた)い、「先軍の旗を高く掲げて国防力を全面で強化しなければならない」と強調している。「先軍」の継承が金正恩氏への権力継承の正統性そのものと化している感がある。  だとすれば、「先軍」は対外的にどう発露するのか。
 金正日氏の死去直後、日本に限らず、米韓両国でも、北朝鮮への中国の影響力が増すという論調が目立った。  筆者とて、それを一概に否定するものではない。  朝鮮半島の流動化を避けたい中国とすれば、金正恩氏への権力継承を不承不承ながら支持せざるを得ない。   中国が北朝鮮により多くの経済支援を供することは確実であろう。
 とはいえ、これは今に始まったことではない。2005年、北朝鮮は中朝国境に近い最大の鉄鋼産地、咸鏡北道茂山鉱山の開発・採掘権を中国に譲渡する契約を交わしたという。  すでにその時点で、経済面における北朝鮮の対中依存は、「身売り」に近かった。
 しかし、北朝鮮は中国への依存を強める一方で、「先軍」の下、核・ミサイル開発を続け、それを対米外交に動員してきた。  実際、茂山鉱山の開発・採掘権を譲渡した翌年の06年、北朝鮮はミサイルを連射した後、1回目の核実験を強行した。  北朝鮮が経済面で中国に頼ることと、核・ミサイル能力を誇示する対米「恫喝(どうかつ)」外交は排他的関係にはなかったわけだ。
≪中国も北を制御しきれない≫:
 このことは6カ国協議の経緯に凝縮されている。  そもそも、中国が北朝鮮との二国間関係で、北朝鮮の核開発を制御できるのであれば6カ国協議は必要なかった。  北朝鮮が核問題を米朝関係に起因する問題と捉えたからこそ、米国の関与は不可欠とされた。  中国が朝鮮半島の非核化の必要性を米国と共有して米朝中3カ国協議が生まれ、6カ国協議の母胎となった。
 見方を変えれば、6カ国協議とは、中国が二国間では制御できない北朝鮮を、米国を交えた多国間関係で制御しようとする試みでもあった。その6カ国協議で中国は議長国を買って出て、北朝鮮の核開発を抑えるため隠然たる影響力を及ぼそうとしたのであろう。
 しかし、06年10月、北朝鮮が核実験を強行すると、時のブッシュ米政権は、北朝鮮が求める米朝協議に応じていった。  それ以来、6カ国協議米朝協議を主軸に展開したばかりか、09年には北朝鮮に2度目の核実験を許し、今日に至っている。  6カ国協議はそこで合意に達するというよりも、米朝二国間合意を多国間で裏書きする場と化している。  中国が議長国として采配を振るう姿はそこにはない。 米朝協議なくして6カ国協議はあり得ず、それは他ならぬ中国が自認しているのではないか。
 中国が北朝鮮に業を煮やしているのは想像に難くない。しかし、中国の影響力に屈するようでは、北朝鮮の「先軍」外交は破綻する。  中国の影響力にもかかわらず、それに屈しないという頑(かたく)なな姿勢こそが、それまで米朝協議を可能としてきたといってもよい。  中国の歯軋(はぎし)りが聞こえてくる。
≪核もミサイルも息子の手柄に≫:
 金正恩氏が金正日氏の「先軍」外交を継承する予兆は、共同社説以外にもみえる。  1月5日、対南対話の責任機関である祖国平和統一委員会の書記局は、北朝鮮が「すでに堂々たる核保有国」であるとした上で「核抑止力は何ものにも代えがたい革命遺産である」と報じた。  さらに20日、同委員会のウェブサイト「わが民族同士」には、金正恩氏が「人工地球衛星」発射、核実験など、「国家の威力を最強にする壮大な作戦を陣頭指揮し、敵らの肝を冷やした」と書かれている。  この際、その真偽はさしたる問題ではない。  北朝鮮がそれまでの核・ミサイル開発を金正恩氏の業績として報じている事実にこそ刮目(かつもく)すべきである。
 しかも、北朝鮮が「革命遺産」とした「核抑止力」なるものは、完成しているわけではない。  北朝鮮はミサイルに装填(そうてん)する核弾頭の小型化を進めつつ、ミサイルの射程を延ばしてはいるが、09年4月に発射された「テポドンII」の射程では、米本土には届かない。
 あえて物騒ないい方をすれば、「核抑止力」が米国に向けてである以上、ワシントン、ニューヨークに「キノコ雲」を立たせる能力を持たない限り、北朝鮮は「核抑止力」が完成したとはみなさないであろう。  北朝鮮が「先軍」を掲げる限り、中国の隠然たる影響力にもかかわらず、その核・ミサイル開発は予見し得る将来、対米外交の機動力で有り続けよう。(くらた ひでや)