・赤字法人対策は、わが国の税制を公平なものにする上で、きわめて重要なものだ!  親族への給与支給を利用した所得分割への対策や、留保金課税制度の問題とも関連しているので、総合的な公平対応のメスを入れよ!

・三条 健です。
・日本にはおよそ260万の法人があるが、そのうち71.5%(08年度)が赤字(税務会計上の欠損)である。 資本金1億円未満に限ると、この割合は何と78.1%になる。 さらに驚くべきことは、国税庁のサンプル調査によると、5期以上連続で赤字法人(欠損)の割合が半数を占めている。
・カギを握るのが、「法人成り」と「2重控除」と言うコンセプトだ!
・法人はその役員に対して給与を支払うが、その支払い給与は、法人にとって「経費」となり課税されない。 給与をもらった役員は、給与所得として、その「経費」相当の給与所得控除を受けることができる。  つまり、法人段階で「経費控除」を受け、個人段階で「給与所得控除」を受ける「2重控除」となる。
・赤字法人への対応として、2重控除を制限すればよい! 既得権益にメスを入れろ!
・2011年度税制改正大綱で、「役員給与等に係る給与所得控除の見直しとして、収入金額が2000 万円を超える役員給与の給与所得控除額については、超える部分の12%を逓減する……」と記されたにもかかわらず、闇に葬られたままだ!
・赤字法人対策は、わが国の税制を公平なものにする上で、きわめて重要なものだ!  親族への給与支給を利用した所得分割への対策や、留保金課税制度の問題とも関連しているので、総合的な公平対応のメスを入れよ!





〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
消費増税議論(その6)
なぜ5年間赤字でも生き延びる   放置されたままの赤字法人課税問題
森信茂樹 [中央大学法科大学院教授]   【第21回】 2012年2月13日

 消費税率の引き上げにあたって、なくすべき既得権益の第2弾として、赤字法人への課税の問題を取り上げる。
なぜ7割以上の法人が 赤字なのか:
 私は、外国人投資家に、日本の税制の話をする機会がたびたびあるが、その際日本の税制の問題点として必ず質問されるのが、赤字法人の問題である。
 わが国にはおよそ260万の法人があるが、そのうち71.5%(08年度)が赤字(税務会計上の欠損)である。 資本金1億円未満に限ると、この割合は何と78.1%になる。 さらに驚くべきことは、国税庁のサンプル調査によると、5期以上連続で赤字法人(欠損)の割合が半数を占めている。
 なぜこのように赤字法人(税務上)の数が多いのか、5年以上赤字でどうやって法人として生き延びているのか、もし税負担を逃れるためだけに赤字に出来る制度があるのであれば、それは改めるべきではないか、これが彼らの正直な疑問・感想であり、私も賛同する。
 実は、なぜこうも赤字法人が多いのか、その原因については、国税庁もさまざまなサンプル調査を行っているのだが、きちんとは解明されていない。 しかし、カギを握るのが、「法人成り」と「2重控除」と言うコンセプトであることはほぼ定説化している。
2重の控除を 受けるための「法人成り」:
「法人成り」というのは、個人事業形態で事業を行うより、法人形態で行った方が税負担が有利なことから、法人形態になることである。  法人形態で事業を行った方が税金面で有利な理由は、税率の差異や家族への所得を分散するなどいろいろあるが、最たるものは、経費の「2重控除」である。
法人はその役員に対して給与を支払うが、その支払い給与は、法人にとって「経費」となり課税されない。 給与をもらった役員は、給与所得として、その「経費」相当の給与所得控除を受けることができる。つまり、法人段階で「経費控除」を受け、個人段階で「給与所得控除」を受けることとなる。
 個人事業であれば、自らへの給与支払いは事業経費として控除できないが、法人形態では2度の控除ができるので、オーナーが自ら給与を決め、税負担の調整を図ることが可能な同族法人、とりわけ一人オーナー会社では、利益が出そうな場合、(あらかじめ)役員の給与をそれ以上取ることにより、法人の決算を赤字にすることが可能となる。
 そこで、赤字法人への対応として、2重控除を制限すればよい、ということになる。
民主党政権でうやむやになった一人オーナー会社の課税問題:
 2005年に新会社法が成立し、最低資本金規制や一人会社禁止規制が撤廃され、「法人成り」が容易になったので、財政当局は、この機会に2重控除を廃止しようと考えた。
 そこで、06年度に法人税法を改正して、一人オーナー会社(特殊支配同族会社)の業務主宰役員給与については、給与所得控除相当額として計算される金額を経費として損金算入することができなくする制度(「一人オーナー会社課税制度」)を創設し、役員給与の「2重控除」の道を閉じたのである。
 ところが、この方法には税理論上の問題があった。2重控除は、本来所得税法で、給与所得控除の問題として対応するほうが望ましい。しかし、諸般の事情から、法人税法での対応となった。そこで、2重控除を是正する手法として適当ではないのでは、という疑問・批判が、日本税理士会連合会などから相次いだのである。
このような中で政権交代が起きた。そして、民主党政権はこの規定を廃止した。廃止の決定過程はきわめて不透明で、政府税調での公開議論ではなく、密室での幹事長室と政府税調幹部との会談での決着となった。もちろんなぜ廃止するのかという議論の議事録は残っていない。
 2010年度(平成22年度)税制改正大綱は、「本制度は平成22年度税制改正で廃止します。その上で、給与所得控除を含めた所得税のあり方について議論をしていく中で、個人事業主との課税の不均衡を是正し、「2重控除」の問題を解消するための抜本的措置を平成23年税制改正で講じることとします。」とのみ記されている。
守られなかった約束
2重控除問題は残ったまま
 問題は、平成23年税制改正で措置を講じるという約束が守られていないこと、したがって、今日まで2重控除の問題が残っていることである。
 実は、2011年度税制改正大綱で、「役員給与等に係る給与所得控除の見直しとして、収入金額が2000 万円を超える役員給与の給与所得控除額については、超える部分の12%を逓減する……」と記されたにもかかわらず、闇に葬られたままである。
 背後に既得権益を守ろうとする勢力が、民主党に強い要望を出していることは間違いない。オーナー企業が、網の目のように、あらゆる場面を通じて既成政党に要望しているのかもしれない。
 赤字法人対策は、わが国の税制を公平なものにする上で、きわめて重要なものである。親族への給与支給を利用した所得分割への対策や、留保金課税制度の問題とも関連しているので、総合的な検討をする必要がある。
 また地域社会の会費的な性格を持つ、法人住民税(地方税)均等割の引き上げによる対応も必要かもしれない。
 一日も早く公平な税制に手直しすべきだ。