・本来的に重要なのは緊急事態対処のための枠組み構築だ!

・59条の無理な制度設計の罪は深い。初回可決条件を上回る3分の2の多数を求めるのはどう考えてもおかしい。
民主党政権は既存の法的枠組みを適正に活(い)かす能力を行政権力が欠いていた。 特に、鳩山と菅は最悪だった。菅政権は3・11で安全保障会議の活用すら忘れ、1ダース余の委員会を急造、空回りを演じた。
・本来的に重要なのは緊急事態対処のための枠組み構築だ!
・現行の安全保障会議国家安全保障会議に改組、拡充する作業があるべきだ。両者の違いは各種の緊急事態問題を専門とする十分な専従スタッフがいないか、いるかだ!
立法府にかかわる「決められない政治」病にはゴールとして憲法59条改正に行きつく中長期的治癒策が不可欠だ!
行政権力の緊急事態対処の劣悪さという悩みは、人材一新によって明日からでもその解消に取りかかれる。






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
年頭にあたり 
防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛
2013.1.9 03:07 [正論]
■「決めない、遅い」日本病は治る
 今年、わが国は日本病たる「決められない政治」から脱却できるか。 この用語は昨今、乱用が過ぎる。   そもそも病(やまい)の原因は憲法59条2項の無理な制度設計にある。  衆議院参議院与野党過半数関係がネジレていると、参議院での反対票決を覆すのに衆議院で3分の2の多数が必要で、このハードルは高過ぎる。  ネジレの下、勢い立法機能は低下し、政権党に苛立(いらだ)ちが募り、党の瓦解(がかい)が始まる。  民主党の最後の1年の姿だ。
≪59条改正で制度設計変える≫
 今回、自公連立政権は衆議院で3分の2超の議席を持つので、事態は好転した。 が、59条2項の反復活用という荒療治は避け、7月の参院選過半数獲得を目指すだろう。  それが不可能でも、自民党の党内結束は悪くないから、参議院で協力的「第三極」諸党からの支援も民主党の場合より得やすいだろう。 「決められない政治」病の発症はぐんと減るはずだ。
 しかし、この病に対する必須の治癒策は、前述の3分の2過半数条項を憲法改正で単純過半数条項に変更することである。  それには時間がかかる。
 それでも粘り強くそれを目指さなければ、「決められない政治」病は将来、いく度でも戻ってくる。 こう見れば、59条の無理な制度設計の罪は深い。
 そもそも衆議院での再可決が必要となるのは、該当法案での与野党対決が厳しい場合のはずだが、そのため初回可決条件を上回る3分の2の多数を求めるのはどう考えてもおかしい。 二院制をとる以上、与野党多数関係のネジレはあらかじめ想定内なのだから、その想定に適(かな)う立法機能の保全改憲によって追求されるべきだ。
≪有事対応センスある人材を≫
 さて、「決められない政治」は本質的には立法府にまつわる日本病だが、過去3年余、わが国は行政府の惨状にも悩まされた。   というより、不適切な行政権行使がもたらす悩みの方が立法府病より重かった。  悩みと病は違う。  わが国の悩みは、外交安保、緊急事態対応で民主党の初めの2人の首相があまりに不適材性だった点だ。  不適材に治癒はなく、切除で解決するほかなかった。
 3年前の施政方針演説で鳩山由紀夫首相は開口一番、「いのちを、守りたい」と訴え、合計24回「いのち」を連呼したが、抑止力の意味を知らなかった。 だから、対外有事で国民の命をどう守るのか、自分で分かっていなかった。
 菅直人首相は自衛隊制服首脳と会談するまで、自分が最高指揮権者だとは知らなかった。  また3・11直後、首相以下、全閣僚が防災服に身を固めたものの、安全保障会議の仕組みを使わず、代わりに1ダース余の委員会を急造、空回りを演じた。  さらに平成22年の尖閣沖・中国漁船体当たり事件の処理ひとつを見ても、同政権の法執行が不適切だったのは明瞭である。
 これらの事例は、既存の法的枠組みを適正に活(い)かす能力を行政権力が欠いていた証拠である。
 3人目の野田佳彦首相本人の安全保障マインドは悪くなかったが、初めの2人の防衛相人事は泣きたくなるほど下手だった。  そうこうするうち、北方領土竹島尖閣のうち唯一、日本の実効支配が効く尖閣では、中国の挑発行為が海域だけでなく空域にも及びだしたし、北朝鮮の実質ミサイルはついに沖縄水域を越えて飛んだ。  今後、関連する深刻な突発事態の発生は、頭に入れておくべきだ。
 問題はまず、非軍事的、準軍事的、軍事的な緊急事態に迅速対応する責任者のセンスである。  センスは制度以前の要素だ。  政治がそのセンスを欠くのでは、官僚や法制度がいかに優れていても適時、適切な緊急事態対応は望めない。  安倍首相以下、新しい国土交通、外務、防衛などの関係閣僚のこの意味でのセンスは大丈夫か。
≪緊急事態条項、法整備必要≫
 順序は逆になったが、迅速対応センス以上に本来的に重要なのは緊急事態対処のための枠組み構築だ。 究極的にはそれはあり得べき改正憲法中に緊急(非常)事態条項として盛られるべきだが、情勢に鑑(かんが)みて緊急事態法の制定が先行しなければならない。  その一部として、現行の安全保障会議国家安全保障会議に改組、拡充する作業があるべきだろう。両者の違いは各種の緊急事態問題を専門とする十分な専従スタッフがいないか、いるかにある。 菅政権は3・11で前者の活用すら忘れたのだが、後者の構想は安倍政権が前次にすでに提唱していて、今次、その推進を言明した。
 繰り返す。わが国は
(イ)立法府にかかわる「決められない政治」病
と、
(ロ)行政権力の緊急事態対処の劣悪さという悩み
とを抱えてきた。
(イ)にはゴールとして憲法59条改正に行きつく中長期的治癒策が不可欠だ。
(ロ)の悩みは人材一新によって明日からでもその解消に取りかかることができる。  堅忍不抜と俊敏性という、異なるふたつの才能の発揮が求められている。
 1年後、安倍政権はどのような中間成績簿を手にするだろう。(させ まさもり)