・中国のスパイ活動では、通常は相手国にある中国大使館での外交官肩書を隠れみのに利用することは少ないのだが、李春光元1等書記官の事例は特殊な理由があったのかもしれない。

・「米国を標的として活動する140カ国ほどの諜報機関でも、中国が最も活発だ」
・中国側の諜報活動を手がける機関は国家安全省だけでなく共産党の対外連絡部や統一戦線工作部、社会科学院所属の各研究所、さらには人民解放軍の総参謀部第2部(軍事諜報)、同第3部(通信諜報)、同第4部(サイバー戦争)までもが含まれる。国有企業が加わることもある。
・ワイズ氏は「ハニートラップ」を中国スパイの伝統的手法だと位置づける。
・近年ではサイバー攻撃によるスパイ活動を急増させている点に注意すべきだ!
・F35の電子システムの機密もサイバー侵入で中国側に奪われた。
・中国のスパイ活動では、通常は相手国にある中国大使館での外交官肩書を隠れみのに利用することは少ないのだが、李春光元1等書記官の事例は特殊な理由があったのかもしれない。







〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中国のスパイ戦術とは   
古森義久   2013.02.11
<インテリジェンスなき国(4)最大の標的は米軍事機密>
 中国の諜報活動の最大の標的はやはり米国だろう。  米国に対する中国のスパイ活動は規模が大きく、根が深く、歴史も古い。  一方の米国にとっても、世界で最も積極果敢にスパイ活動を仕掛けられるのが中国なのだ。
 2009年、米議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は数回にわたって中国のスパイ活動に関する公聴会を開催した。  その場で、国家情報会議 (NIC)防諜部門のジョエル・ブレナー専門官は「米国を標的として活動する140カ国ほどの諜報機関でも、中国が最も活発だ」と証言した。
 同委員会の報告によると、中国側でこうした活動を手がける機関は国家安全省だけでなく共産党の対外連絡部や統一戦線工作部、社会科学院所属の各研究所、さらには人民解放軍の総参謀部第2部(軍事諜報)、同第3部(通信諜報)、同第4部(サイバー戦争)までもが含まれる。国有企業が加わることもあるという。
◆「孫子」に倣う手法
  中国のスパイ活動研究の権威で、一昨年に刊行された『中国スパイ秘録 米中情報戦の真実』(邦題)の著者としても知られるデービッド・ワイズ氏は、中国の対米工作での最大の標的は軍事機密だと指摘した。
 「経済的に超大国になった中国は軍事面でも超大国を目指すが、なお米国に比べて戦力が弱い。  米国に追いつけ、追いこせ、という自己要請が異様なほど強く、そのためには米軍の高度技術を盗むことを最も合理的とみなすわけだ」
 ワイズ氏は中国の近年の「成果」として、米軍最新鋭の戦闘機で、日本の導入も決まったF35の機密や、トライデント戦略潜水艦装備の核ミサイル弾頭W88の軽量化技術の機密の奪取を挙げた。
 特に核兵器の機能向上技術、ミサイルの命中度向上技術、潜水艦の航行時の音を抑える技術などを不法に入手するのに必死になってきた、というのだ。
 ワイズ氏は、中国のスパイ活動の手法について「人のアキレス腱(けん)のように弱点を突くことが多く、昔から男女の仲を利用する『ハニートラップ』も頻繁に仕掛ける」と指摘した。
 その代表例としてワイズ氏が自著でも詳述するのが、カトリーナ・リョンという中国系米人女性の二重スパイ事件である。
 この女性は、中国国家安全省の指令で動く対米スパイだったが、米連邦捜査局FBI)にも接近して捜査員2人と交際し、米側の対中工作員になりすました。  そして米側の機密を中国に流したことが発覚し、2004年に摘発された。 ワイズ氏は「ハニートラップ」を中国スパイの伝統的手法だと位置づける。
 ニクソン元大統領が在野時代の1960年代に香港の中国人クラブホステスと親しく交流して、「トラップ」を疑われた実例もワイズ氏は詳述。  中国の対米スパイ活動の総括として次のように語った。
  「中国共産党政権のスパイ戦術は古い兵法書孫子』が教える密偵の使い方をも参考とし、ハニートラップや中国民族の血のつながり、そしてカネを駆使する巧妙な方法だ。  だが、近年ではサイバー攻撃によるスパイ活動を急増させている点に注意すべきだ」
◆世論も巧みに誘導
  中国側のサイバー攻撃の標的となった機関には、海軍海洋システム・センターなどが挙げられる。  前述のF35の電子システムの機密もサイバー侵入で中国側に奪われたという。
 そのワイズ氏に、在日中国大使館の李春光元1等書記官のスパイ疑惑について尋ねると、次のような解説が返ってきた。
 「中国の諜報活動では相手国の機密を盗むだけでなく、政府の決定や世論に影響を及ぼし、中国側に有利な方向へ導くという工作も重要とされる。    旧ソ連KGB(国家保安委員会)が重視し、その要員を『影響力工作員』と呼んでいた。  日本の事件はそのパターンである形跡が濃いと思う」
 ただ、こうも付け加えた。「中国のスパイ活動では、通常は相手国にある中国大使館での外交官肩書を隠れみのに利用することは少ないのだが、今回の事例は特殊な理由があったのかもしれない」