アジア・太平洋地域において国際法に基づく秩序と民主主義擁護に、わが国が貢献することが日米両国の国益だ!

・米国の国内偏重の姿勢を加速させたのがオバマ大統領の政治力の衰退である。
・「ニューヨーク・タイムズ」紙は4月末段階ですでに「レームダック」の言葉を見出しに用いてオバマ大統領を批判し、「弱体化の印象を与えること自体が弱体化の原因となることがわからないのか」とした。
オバマ政権がメディアも信用せず、国民も信用していないという印象をさらに強めたのがスノーデン事件だった。
・いまや米国の方が海外の紛争に巻き込まれたくないと言っているのだ!
・米国が求めているのは、価値観を共有する日本の協力だ! 米国の負担を減らし、少なくともアジア・太平洋地域において国際法に基づく秩序と民主主義擁護に、わが国が貢献することが日米両国の国益だ!






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
2013.08.08 (木)
「 行き詰まるオバマ政権と日本の役割 」
週刊新潮』 2013年8月8日号  日本ルネッサンス 第569回
 オバマ大統領の凋落が著しい。
 世界最強国である米国で政権の求心力低下が急速に進みつつある。
 台頭した中国の前でオバマ政権が顕著に力を落とし続けることは、アジア・太平洋地域のみならず全世界に大きな影響を与える。
 日本も、その他すべての国々もオバマ政権凋落の影響を測ったうえで、賢く行動しなければならない局面である。
 オバマ大統領がどれほど政治的に力を失っているか、結果としてどれほど身動き出来ない状況に陥っているかを知っておかなければならない。
任期2期目に入るや否や、世界はオバマ大統領の関心が内向きに傾いたことを実感させられた。
 アジア・太平洋地域にコミットするという立場に正式に大きな修正が加えられたわけではないが、それでもアメリカ国内以外の問題には余り関わりたくないという内向き傾向が顕著になった。
 米国の国内偏重の姿勢を加速させたのが大統領の政治力の衰退である。
 2期目に入ってたった6ヵ月、大統領の支持率は45%に落ちた。
 オバマ大統領にとって、最低の支持率であるのみならず、議会の議員83%がオバマ氏の一連の政策に否定的だとの数字もある。
 当然、米国各紙のオバマ大統領に関する論調は目を疑うほど、厳しい。
 オバマ大統領を描写するのに「レームダック」(死に体)という表現はもはや珍しくない。 そうした中で、7月2日には大統領が2期目の最大の政治目標として掲げた医療保険制度改革の1年先送りが発表された。
 オバマ・ケアと通称される同改革は、米国の総人口3億人の内、6人に1人、5,000万人近くが無保険である状況を改善し、国民皆保険制度を確立しようというものだ。
 今後10年間で少なくとも9,400億ドル(約94兆円)を注ぎ込んでオバマ・ケアを実現し、米国を福祉国家として確立した大統領として歴史に名を残したいと意気込んでいたオバマ氏にとって、大目標の1年延期は致命的な躓きである。

具体策のない夢:
 7月26日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に、ルイジアナウィスコンシン両州の知事が連名で、「機能しないオバマ・ケア」という記事を寄稿した。 計画自体が如何に杜撰であるかを、住民と接する中で実際に医療保険などを実施していかなければならない実務者の立場から論じていて説得力がある。両知事はこう書いている。
 「オバマ政権は(医療保険改革を)成功裡に施行するための適切な具体策を持ち合わせていない」
 具体策がない夢だけのオバマ・ケアは最初から「機能するはずがない」と両知事は切り捨て、さらに厳しく次の点を指摘した。
 何もかもが不確かな中で、確かなことがひとつある。 それはオバマ・ケアの結果として、雇用主が負担する保険制度から700万人が外されることだというのだ。  両知事の驚くべき指摘は超党派の議会予算局の分析に基づくもので信頼出来ると思われる。  さらに両知事は全米最大の3労組が7月12日付で民主党に送った書簡を紹介し、警告を発した。
 書簡の内容は、オバマ・ケアによって米国の労働者は苦労して獲得してきた医療保険のメリットを失うだけでなく、米国の中産階級の背骨となってきた週40時間労働という決め事が破壊されるというものだ。
 ちなみにオバマ・ケアではフルタイムの労働は週30時間と規定され、リストラやパートタイム労働者の増加に拍車が掛かる恐れもある。
 他方、オバマ大統領は7月24日、イリノイ州のノックス大学で「勝者が全てを奪う経済体制の下では、ごく少数がもっともっともっと豊かになり、他の全員が辛うじて没落しないでいる」と、熱弁をふるった。
 成長産業で雇用をふやし、中産階級を豊かにし、教育の質を改善し、皆が住宅を購入でき、引退後の生活を保障し、国民皆保険を実現するとの大目的を大統領は繰り返した。
 日本の民主党のバラ色政策を連想するが、ブルームバーグは同演説を「中身のない貝殻」の見出しで報じた。
 こうした報道にもまして、厳しい論調を展開しているのが、実は大の民主党びいきの「ニューヨーク・タイムズ」紙である。
 同紙は4月末段階ですでに「レームダック」の言葉を見出しに用いてオバマ大統領を批判し、「弱体化の印象を与えること自体が弱体化の原因となることがわからないのか」とさえ書いた。

メディアへの敵対意識:
 オバマ大統領が抱えるその他の問題を見てみよう。 たとえば内国歳入庁(IRS)の事件だ。 これはオバマ大統領の政敵である保守派の議員らを支える団体への税審査をとりわけ厳しく行ってきたという事件だ。
 或いは中央情報局(CIA)がイエメンのアルカイダ系組織による航空機爆破計画を未然に阻止したことを報じたAP通信の記者に対する盗聴事件である。
 オバマ大統領のメディアに対する敵対意識は強く、米国政府が記者の情報源を訴追するケースはオバマ政権以前には3件しかなかったとされる一方で、オバマ政権の4年間ではすでに6件に上っている(『朝日新聞』7月29日、朝刊)。
 オバマ政権がメディアも信用せず、国民も信用していないという印象をさらに強めたのがスノーデン事件だったのは言うまでもない。
 いずれの事件も、オバマ大統領のイメージとは大きくかけ離れている。 彼こそ人権を重んじ、情報公開や決定のプロセスの透明性を重んじる人物だと思われていたのではなかったか。 そう信じていた人々にとっては、悉く、期待外れの事象がいま眼前に広がっており、それに対する答えが支持率45%なのである。
 死に体と言われ始めた大統領は問題解決能力を著しく低下させている。 外交がどんなときにも内政の延長線上にある以上、オバマ政権が国際社会で力を発揮することは容易ではない。
 日本では日米安保条約憲法改正に反対する人々が日本が米国の戦争に巻き込まれる危険性を指摘してきた。
 しかしいまや米国の方が海外の紛争に巻き込まれたくないと言っているのである。東シナ海問題を抱えるわが国、南シナ海問題を抱える東南アジア諸国はこの点を熟慮し、早急に対策を立てなければならない。

 いま、米国が求めているのは、価値観を共有する日本の協力である。
 米国の負担を減らし、少なくともアジア・太平洋地域において国際法に基づく秩序と民主主義擁護に、わが国が貢献することが日米両国の国益である。
 それを可能にするために、日本があらゆる意味で道義を重んずる勁い国になるのが望ましい。憲法改正を含めた日本国の再建が急がれるゆえんである。