・日本の政治は、「国家安全保障の枠組み作り」を半世紀にもわたり「先送り」してきた。

・日本の政治は、「国家安全保障の枠組み作り」を半世紀にもわたり「先送り」してきた。
・国家安全保障戦略で打ち出された「積極的平和主義」は、自衛隊の海外活動が多様化し、頻繁になることを意味する。
国際緊急援助隊の活動には、スマトラ津波災害やフィリピン台風災害時の派遣がある。平和維持活動(PKO)は現在、南スーダン陸上自衛隊が当たっている。
・西の防衛では「統合機動防衛力」名の下、陸上総隊の設置はもちろん、作戦基本部隊に高い機動力を持たせた機動師団、機動旅団、水陸機動団を編成し、統合任務部隊に組み込む必要がある。
陸自は自前の戦力だけが勝負だ。 特に小規模な地上戦闘に際しては米軍の参戦は期待薄だ。





〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
「西」の守りに陸自の編成変えよ 
帝京大学教授・志方俊之  2013.12.24 03:12 [正論]
  安倍晋三政権は、わが国の政治が半世紀にもわたり「先送り」してきた国家安全保障の枠組み作りを急ピッチで行っている。
  国家安全保障会議(NSC)の創設と特定秘密保護法の制定に続いて今回、国家安全保障戦略(NSS)を決定した。 NSS文書の公表は、防衛力整備の根拠を国民に説明するだけでなく、日本の戦略を国際的に発信するという画期的な価値を持つ。
 中身は、あまり頻繁に修正するものではなく、国際的な戦略環境の変化に伴い概(おおむ)ね10年を目安に見直される。
自衛隊邦人救出派遣も≫
  さらにNSSに沿って、防衛の在り方に関する指針「平成26年以降に係る防衛計画の大綱(以下、25大綱)」を策定した。
 大綱もまた、大きな戦略環境の変化を受けて書き直される。
 1976年、95年、2004年、10年に見直されて今回は5回目だ。 その間隔が短くなっているのは周辺戦略環境の目まぐるしい変化による。
 冷戦初期の1957年にできた「国防の基本方針」は、戦略というよりも、いつの世も変わることのない原則をうたっていた。  ただし、それだけでは防衛力整備の具体化は難しかったのである。
 25大綱の最初の5カ年(平成26〜30年)に行う主要事業と経費を一体的に説明した、「中期防衛力整備計画(以下、中期防)」もまとまった。  そのために必要な経費は約24兆6700億円で前回よりも増額された。  これまで続いていた防衛関係費の減少にストップがかかったことを歓迎する。
  国家安全保障戦略で打ち出された「積極的平和主義」は、自衛隊の海外活動が多様化し、頻繁になることを意味する。
 国際緊急援助隊としての活動には、スマトラ津波災害やフィリピン台風災害時の派遣がある。平和維持活動(PKO)には現在、南スーダン陸上自衛隊が当たっている。
 自衛隊が初めて海外活動に派遣されたのは、湾岸戦争直後の海上自衛隊によるペルシャ湾「機雷掃海活動」であった。  イラク戦争後には長期間、人道復興支援に従事したし、現在はソマリア沖で海賊対処活動に当たっている。  将来はアルジェリアで起きたような、在外邦人の救出活動(NEO)に参加することも考えられる。
≪海空に傾く防衛力の整備≫
 比べれば、冷戦時代のわが国の安全保障戦略は単純明快だった。 日米安保体制を堅持し、西側陣営の一員として北東アジア地域での安全保障の環に「断点」をつくらないこと、それに尽きた。
 筆者は冷戦終結間際の時期、陸上自衛隊の北部方面隊に総監として勤務していたが、使命は「北への備え」、すなわち奇襲侵攻により一時的にせよ北海道を極東ソ連軍に占領させないことだった。
 当時は極東ソ連軍を「潜在的脅威」と呼び、陸自は、北海道に1個機甲師団を含む計4個師団、その全戦力のほぼ3分の1を集中配備していた。 NSSは、中国の軍事力急増や行動の活発化を「懸念」と呼んでいるが、潜在的脅威と懸念とはどこがどう違うのか。
 自衛隊の態勢を「北への備え」から現今の「西への備え」に変えるために必要なことは多い。 この数年、自衛隊が着々と行ってきた態勢変換のペースを、今回の国家安全保障戦略に基づく25大綱と中期防によって加速し、確固たるものにしなければならない。
 「北の守り」と「西の守り」の基本的違いは大きく3つある。
 第1は、西では守るべき空域と海域が極めて広いことだ。 このため、まずは空自により航空優勢を獲得し海自により制海権を確保する。
 そのための警戒監視能力も整備しなければならない。
 それなくしては陸自による島嶼(とうしょ)防衛は成立しない。防衛力整備はどうしても海空重視に流れることになる。
≪自力頼みの陸軽視するな≫
 第2は、西では大規模な陸海空自の部隊を配備するスペースが限られることで、陸自の編成を大きく変える必要がある。「統合機動防衛力」名の下、陸上総隊の設置はもちろん、作戦基本部隊に高い機動力を持たせた機動師団、機動旅団、水陸機動団を編成し、統合任務部隊に組み込む必要がある。
 第3は、20年前、北の守りに明け暮れた時代と異なり、今は自衛隊がなすべき任務が多様化していることだ。 ミサイル防衛、サイバー空間での戦い、対テロ特殊防護など多方面にわたる。
 「積極的平和主義」を実現するために、陸上自衛隊が海外に派遣されるケースも多くなるだろう。  迫りくる首都直下地震や、南海トラフに沿う大規模地震では、何といっても初動段階で現地に投入される陸自の隊員数が、災害救援の成否の鍵となることを忘れてはならない。
 加えて海自、空自の場合は米軍と協力態勢が取れるものの、陸自は自前の戦力だけが勝負だ。 特に小規模な地上戦闘に際しては米軍の参戦は期待薄だからだ。
 むろん海自、空自の戦力も最終的には「人」で決まる。 「装備」は導入した日から陳腐化が始まるが、人は入隊後、年月をかけ訓練をして初めて敵に勝つ能力を持つことを忘れてはならない。(しかた としゆき)