・日本農政の失敗は、もともと拡大する見込みのない兼業農家を“生き長らえ”させてきたことだ。

自民党はTPPの問題を抜きにしても、日本の農政を転換するときだと認識する必要がある。
・オランダもイタリアも、日本より国土の面積は狭いのに、なぜ生産性が高いのか。
国連食糧農業機関(FAO)の2007年統計によると、農林水産物・食品の輸出額は米国が1位で8兆円強、2位がオランダで6兆円、7位のイタリアでさえ2・4兆円だ。 
・官僚も農水族も農協を潤すため愚かな農政を進めてきた。
・農家の年間所得(10年)をみると、米作の年収は450万円だ。 その内訳を見ると、年金収入と農外所得が各200万円、コメ収入はわずか50万円にすぎない。
・日本農政は最も生産性の低いコメ農家に毎年、何兆円もの金を使ってきた。 酪農家や養豚農家がそれなりの所得を上げているのは、これほど手厚い特典を受けていないからだ。
・日本農政の失敗は、もともと拡大する見込みのない兼業農家を“生き長らえ”させてきたことだ。これで最も得をしているのは農協だ。 
・エサ米、米粉用に作った田んぼにも10アール当たり10万5000円払うという姑息な手である。からくりを潜ませた「減反廃止」だ!
 これは主食用とほぼ同額であり、おのずと減反面積が増え、主食米が減るから、価格は上昇する“仕組み”だ!







〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
正攻法で農業構造改革に当たれ 
評論家・屋山太郎  2014.1.20 03:42 [正論]
 アベノミクスの成長戦略の重要な柱のひとつが農業であることは間違いない。 自民党は半年前の参院選で、農産物5品目を「聖域」にすると公約した。 これがブレーキとなって、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加交渉は暗礁に乗り上げている。  しかし、自民党はTPPの問題を抜きにしても、日本の農政を転換するときだと認識する必要がある。
≪オランダの生産性なぜ高い≫
 日本の農業が他の先進国に比べて面積的に不利な点を挙げ、構造改革は諦めてTPPに参加しなくても良い、とする主張がある。  農地面積からいえば、日本は1戸当たり2・3ヘクタールだ。 これに対し、米国は100倍、欧州連合(EU)は6倍だ、としたり顔で言う経済評論家や政治家がいる。
 国連食糧農業機関(FAO)の2007年統計によると、農林水産物・食品の輸出額は米国が1位で8兆円強、2位があの小さなオランダで6兆円、7位のイタリアでさえ2・4兆円だ。  それなのに日本は長らく3250億円に低迷している。  オランダもイタリアも、日本より国土の面積は狭いのに、なぜ生産性が高いのか。
 農地が狭いといいながら、日本はすでに200万ヘクタールを工場などの他用途に転用し、残った450万ヘクタールのうち40万ヘクタールが耕作放棄地になっている。 加えて田んぼの100万ヘクタールを減反している。こんな非常識でいびつな農政を展開してきたのが農水省、JA農協、国会の農水族である。
 農家の中にも「減反政策は大農経営を妨げている」と突き上げる声があるが、官僚も農水族も農協を潤すため愚かな農政を変えられないのである。
 切り口をひとつ示す。
 作物の類型別に農家の年間所得(10年)をみると、
酪農が850万円、
養豚800万円、
花卉(かき)と野菜が各600万円
であるのに対し米作の年収は450万円だ。 その内訳を見ると、年金収入と農外所得が各200万円、コメ収入はわずか50万円にすぎない。
≪失政は兼業農家延命にあり≫
 日本農政は最も生産性の低いコメ農家に毎年、何兆円もの金を使ってきたのである。 酪農家や養豚農家がそれなりの所得を上げているのは、これほど手厚い特典を受けていないからだ。 フランスが農業近代化に成功したのは30年前からで、農業所得が収入の51%以上の農家のみに補助金、融資を投入し49%以下の農家の離農を助けた。 その結果、食料自給率は90%台から112%に向上した。
 日本農政の失敗は、もともと拡大する見込みのない兼業農家を“生き長らえ”させてきたことだ。これで最も得をしているのは農協だということを指摘しておく。 
 例えば、小農10戸にトラクターを300万円で売れば、3000万円の売り上げになるが、10戸を1戸に集約したのでは農協の儲(もう)けは10分の1になる。 コメ価格を関税で調節して下げていけば、いずれ小農家は離脱する。そういう政策こそが日本には必要なのだ。
 安倍晋三首相は「農業を輸出産業に」とかけ声をかけている。実際、日本の野菜、果物の評判はアジアだけでなく世界に鳴り響いている。
 「輸出は無理」といわれているコメについても、「可能だ」と自信をみせる農家もいる。  政府は農地集約のための「農地中間管理機構」を設置し、散在している1、2ヘクタールの農地を集めるという議論をしているが、今の農政では実効は全く期待できない。
 自民党は今年から5年間で「減反補助金を廃止」すると打ち出した。とりあえず、これまで10アール当たり1万5000円を払ってきた減反補助金を、来年度から半額の7500円にするという。
 この減反廃止のニュースを聞いた人は、5年間で補助金をゼロにするならコメの価格は5年後には国際価格並みになると錯覚するだろう。
≪からくり潜む「減反廃止」≫
 それにしては、コメなど5品目を聖域としていた農業界の静けさはいったい何なのか。 実は減反廃止といっても、コメ価格は下がらず農業界は全く困らない“からくり”が潜んでいるのだ。
 コメ農家に10アール当たり10万5000円の収入を確保する一方、減反した側にも、米粉やエサ米の生産を条件に10アール当たり8万円を交付してきた。 しかし、これでは減反が進まず、米価は1俵(60キロ)1万6000円に維持するのが農協の思惑なのに、目下、1万2000円程度に下落している。  そこで、農水省や農協が考え出したのは、エサ米、米粉用に作った田んぼにも10アール当たり10万5000円払うという手である。
 これは主食用とほぼ同額であり、おのずと減反面積が増え、主食米が減るから、価格は上昇する“仕組み”である。 エサ用と米粉用が450万トンになると見込まれているが、米国からはエサ用トウモロコシや米粉に代用される小麦の輸入をその分、減らさざるを得ない。  この手段は、世界貿易機関WTO)の農業協定違反になる可能性がある。
 安倍政権は姑息(こそく)でペテンまがいの農政をやめよ。
 正攻法で農業構造改革に当たるべきだ。(ややま たろう)