・ISILはあくまでもイラクが拠点で、イラクをスンニ派原理主義国家に回復させようとしている。

・「ISIL」(イラク・レバントのイスラム圏)はイスラム原理主義過激派で、イラク、シリア、レバノンを含む地中海沿岸に宗教戒律を厳格化する国家建設を目標に、都市バグダッド陥落をめざす。
・基本的にスンニ派であり、シーア派に反目する若者の志願兵も目立ち、往時のアルカィーダをしのぐ大勢力となっている。
・ISILは、シリア内戦に志願し、スンニ派武装組織を戦闘支援を通じて、いつのまにか吸収し、組織を膨張させた。
・マリキ政権は反撃能力が希薄で、政府軍は逃亡している。
・ISILはあくまでもイラクが拠点で、イラクスンニ派原理主義国家に回復させようとしている。
・サウジは、イラクスンニ派国家に戻ることには理解を示す。
アメリカはイラクに長い間、駐留していて、一体何を統制管理していたのか?










〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
ISIL(イラク・レバントのイスラム圏)がバグダッド陥落をめざす   宮崎正弘     2014.06.12
■大油田キルキークを掌握し、首都に迫るアルカィーダ系武装組織の謎
  新顔「ISIL」(イラク・レバントのイスラム圏)はイスラム原理主義過激派。  イラクばかりかシリア、レバノンを含む地中海沿岸に宗教戒律を厳格化する国家建設を目標都市、バグダッド陥落をめざす。
  ISILはイラク戦争中にテロを繰り返したアルカィーダに刺戟され、「イラクイスラム国」を名乗って急激に肥大化してきた武装組織だが、シリア内戦に介入した「外人部隊」である。
 2011年にいまの組織名に変更した。   指導者はアブバクル・アル・バグダディという。
  軍事訓練を積み重ねた構成員が急激に増えているのは、各地で刑務所を襲い、囚人らを強制入隊させることも一因だが、基本的にスンニ派である。 シーア派に反目する若者の志願兵も目立ち、往時のアルカィーダをしのぐ大勢力となっている。
 ISILは、シリア内戦に志願し、スンニ派武装組織を戦闘支援を通じて、いつのまにか吸収し、組織が膨張させたといわれる。
  資金の背景は謎だが、胴元サウジアラビア説が有力。 しかし真偽のほどは不明。 ひとことでいうと民族部族混合の外人部隊だ。
 シリア・イラク国境付近から出撃し、モスルを陥落させたISILは、11日までにサダム・フセイン元大統領の出身地(つまり現マリキ政権に反対する住民多数)キルキーク、ファルージャを軍事的に掌握した模様である(ロイター、NYタイムズなどが伝えている)。
 マリキ政権は反撃能力が希薄で、政府軍は逃亡しているという情報もある。
 マリキ政権はシーア派で背後にイランがあり、旧サダム支配下スンニ派住民を虐殺しているため、ISILが占領した地域での住民はもともと反政府感情が強かった。  皮肉にも「イラク民主化」を掲げてイラクに介入した米国は、「民主主義」のシンボルとして押しつけた「投票箱民主主義」の結果、米国に敵対する組織を政権につかせてしまった。
 モスルでISILはトルコ領事館を襲撃し、領事を含む48人を人質に取った。 トルコのエルドアン首相は猛烈に抗議した。 また同市から50万人の避難民が発生し、国連が乗り出した。
▲かくも中東情勢は魑魅魍魎がうごめく世界だ
  この経過と組織の命名ぶりから推測できることがある。
  第一にISILはあくまでもイラクが拠点で、イラクスンニ派原理主義国家に回復させようとしていること。
  第二が「レバント」の名前をなぜ付けているのかという謎である。周知のように「レバントの海戦」(1571年)ではトルコが敗北したが、これは「世界三大海戦」のひとつ。(歴史家によって評価が異なるが世界三大海戦はほかに日露戦争の対島沖海戦、トラファルガー海戦)。
 つまりスンニ派世俗主義のトルコと敵対している事実である。
 シリア内戦により、百万以上の難民がトルコに押し寄せている。トルコは中東の盟主を回復しようとしている。
  第三が微妙な立ち位置にあるサウジアラビアが、シリアのアサド政権を守護している。 この点で米国と対立しており、オバマが訪問してもサウジ国王は夕食会を蹴飛ばしたほど険悪である。
 イランをもっとも脅威視するサウジは、イラクスンニ派国家に戻ることには理解を示す。
  中東情勢は事ほど左様に魑魅魍魎、砂漠の蜃気楼のごとく突如出現した武装組織が、いきなりバグダッドに進撃するわけだから、明日どうなるか、誰にも分からないだろう。