・「原発停止前に比べて、一世帯あたり9万円近く、エネルギー価格高騰による負担増がある」が、これは「消費税増税3%とほぼ同じ世帯負担」

・力点を置いているのは経済の変化で、それは米国の先行きの不透明さに加えて、ロシアの通貨危機、断末魔の中国経済とユーロ恐慌が、世界的に連鎖を拡大してゆくなかで、頓挫しているかにみえるアベノミクスは、いかに再生されるのか。
・世界経済のグルーバル化によって、エボラのような急性伝染病が世界に広がると「すべてのサプライ・チェーンが止まるという弊害」である。
・補完態勢の確立、あるいはバックアップ・システムの構築がますます必要である。
・「円安がもたらす電力コストの激増」である。これがアベノミクスが円滑化しない元凶のひとつである。
・「原発停止前に比べて、一世帯あたり9万円近く、エネルギー価格高騰による負担増がある」が、これは「消費税増税3%とほぼ同じ世帯負担」










〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
書評「突き破る日本経済」     
宮崎正弘  2015.01.10

アベノミクスの現在、未来の問題点をやさしく解説 世界情勢に日本経済は巻き込まれるため、成長が順調にいくか、どうか

<渡邊哲也『突き破る日本経済』(徳間書店)>
 いま最も注目されている経済評論家のひとり、渡邊氏はビジネスの現場にながらくいた人で、その実践的経験と現場の直接的な感覚から、難しい経済理論に捕らわれない経済の分析や予測を展開している。
 着眼点にユニークなところがあり、発想も自由自在、ときに意表を突くアイディアを提示される。
 本書でとくに力点を置いているのは経済の変化で、それは米国の先行きの不透明さに加えて、ロシアの通貨危機、断末魔の中国経済とユーロ恐慌が、世界的に連鎖を拡大してゆくなかで、頓挫しているかにみえるアベノミクスは、いかに再生されるのか。
 こうした主張のなかみは、本書に当たられるとして、評者(宮崎正弘)が通読して「おやっ」と思った箇所を三つほど挙げる。
 つねにリスクを考慮に入れて次のシナリオに備えるのは誰もが行うべき事だが、渡邊氏は、エボラ出血熱とグローバル・サプライチェーンの危機をのべている。
 すなわち世界経済のグルーバル化によって、エボラのような急性伝染病が世界に広がると「すべてのサプライ・チェーンが止まるという弊害」である。
 タイの洪水もさりながら東日本大震災にあった折の食料、医薬品の急激な不足。これは日本が世界に先駆けて確立したトヨタ方式の「必要なものを、必要なだけ、必要なときに」という効率的経営の横に、いつでも存在するリスクであり、補完態勢の確立、あるいはバックアップ・システムの構築がますます必要であると説かれるのである。

 次に韓国経済は中国に急激にしかも大規模にめり込んだことは知られるが、その結果、サムソンが予測だにしなかった危機に瀕している。
 スマートフォンでも中国製がサムソンより激安な製品を投入してきたため世界シェアが逆転している事実がある。
 「中国に(韓国が)シェアを奪われたのはスマートフォンだけではない。 自動車、造船、海洋、石油化学の分野でも中国に逆転され」、こうして「韓国経済において、財閥系企業の凋落は、韓国経済そのものの崩壊を意味する」と警告する。
 もう一つ。
「円安がもたらす電力コストの激増」である。これがアベノミクスが円滑化しない元凶のひとつである。
 原発がとまり、円安で原油価格急落でも輸入価格はかわりなく、「原発停止前に比べて、一世帯あたり9万円近く、エネルギー価格高騰による負担増がある」が、ここれは「消費税増税3%とほぼ同じ世帯負担」なのである。
 つまりダブルのデメリット。ならば原油が一バーレル50ドルを割り込んだいま、それほどではないと反論の向きもあるだろうが、原油備蓄180日分がしめすように、180日前の代金が重くのしかかっており、さらに言えば、エネルギーは長期安定契約に基づくのでスポットの価格が急減していても、長期契約の価格体系是正には時間がかかるのである。
 ほかにもいろいろと有益な指摘が為されている。
 杜父魚文庫