・これからの日本の戦略構想(グランド・ストラテジー)を具体的に展開するためには、新しい政党政治システムの下での強力な国内基盤の確立が必要だ!

・法の支配、市場経済、民主主義の諸原則に基づく「先進国/新興国複合体」が平和と繁栄を追求する。
・日本はリスク・ヘッジ外交と主要国協調外交との組み合わせによって、対中関係の安定化を目指すことが求められる。 主要国間協調の中でも、日本の最重要パートナーはアメリカだ!
・これからの日本の戦略構想(グランド・ストラテジー)を具体的に展開するためには、新しい政党政治システムの下での強力な国内基盤の確立が必要だ!
・第3のサイクルの再上昇へと離陸することも可能になるだろう。 それはかつての経済大国への復帰を意味しない。
・「再上昇」とは、GDP(国内総生産)の数字に左右されない、政治的・経済的・社会的に成熟した先進国への離陸のことだ!
・世界秩序は、「先進国/新興国複合体」を中核として再編の歴史的変動の過程にある。新興国の台頭が著しいのに対して、日米欧の国際的な地位が揺らいでいる。
・日本が第2のライフサイクルにおいて経済成長に成功したのは、第1のサイクルにおける近代化の歴史があったからだ!  戦後の日本と同様に、今日の新興国が経済的に成功する保証はないのだ!






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
世界構造変動に内向き志向では
学習院大学教授・井上寿一 2011.7.6 03:05

 今の日本は、東日本大震災後の復興にとどまらず、国家のグランド・デザインを描き直す段階に入っている。復興ビジョンについてはすでに、政府の復興構想会議の提言をはじめ多様な議論が展開されているので、ここでは繰り返さない。  考えてみたいのは、復興の先にある日本の将来像である。

≪恩を仇で返すODA予算削減≫:
 私たちの研究グループも及ばずながら、日本の将来像の検討を続けてきた。座長の山本吉宣東京大学名誉教授、メンバーの納家政嗣青山学院大学教授、神谷万丈防衛大学校教授、金子将史PHP総研主席研究員とともに、このほど、政策提言書、『「先進的安定化勢力・日本」のグランド・ストラテジー−「先進国/新興国複合体」における日本の生き方』として研究の成果を公表した(詳細はPHP総研ホームページに掲載)。
 この政策提言書において強調したのは、歴史的な視点から日本のグランド・デザインを描き直すことの重要性である。  具体的には、「国家のライフサイクル」という考え方を導入した。  第1のサイクル(幕末維新から太平洋戦争敗戦まで)、第2のサイクル(戦後から近年まで)を経て、日本は第3のサイクルに入りつつある。

 なぜ、中長期的な視点から提言書をまとめたのか。国際社会が歴史的な構造変動の過程にあるにもかかわらず、日本社会は内向き志向を強めているからである。
 今回の大震災の際に、日本は空前の国際的な支援・援助を受けた。ところが、復興財源を捻出するために、最初に槍玉にあげられたのが、ODA(政府開発援助)予算だった。恩を仇で返すに等しいODA予算の削減は、強い批判を受けて削減幅を縮小しながらも、実行されることになった。
 内向き志向の加速化の背景には、世界第2の経済大国の地位から滑り落ちた日本経済に対する悲観的な見通しがある。日本は右肩下がりの衰退に向かっているのではないか、という不安である。

≪衰退期ではなく第3サイクル≫:
 そうではないと言うための「国家のライフサイクル」である。 回復の戦略があれば、衰退の道をたどることなく、第3のサイクルの再上昇へと離陸することも可能になるだろう。 それはかつての経済大国への復帰を意味しない。 再上昇とは、GDP(国内総生産)の数字に左右されない、政治的・経済的・社会的に成熟した先進国への離陸のことを指している。

 それでは、日本の将来像はどのようなものか。議論の前提となるのは、次のような認識である。世界秩序は、「先進国/新興国複合体」を中核として再編の歴史的変動の過程にある。新興国の台頭が著しいのに対して、日米欧の国際的な地位が揺らいでいる。
 しかし、新興国が日米欧に取って代わることはないだろう。警戒すべきは、新興国の急速な経済発展よりも、それにともなう国家の不安定化である。日本が第2のライフサイクルにおいて経済成長に成功したのは、第1のサイクルにおける近代化の歴史があったからである。戦後の日本と同様に、今日の新興国が経済的に成功する保証はない。

≪先進・新興国複合体の安定化≫:
 そうだとすると、これからの世界には、先進国と新興国とによる複合体が形成されるだろう。この複合体のルール・メーカーは先進国である。
 法の支配、市場経済、民主主義の諸原則に基づく「先進国/新興国複合体」が平和と繁栄を追求する。この国際的な複合体において、日本は、安全保障、経済、社会などの多岐にわたる複雑な国際問題の解決のために、「先進的安定化勢力」としての役割を果たすべきである。
 「先進国/新興国複合体」といえども、先進国から新興国へ「力の移行」が続いていくのでは、不安定化をまぬがれがたい。「安定化勢力」の日本は主要国間の協調に努めなくてはならない。

 主要国間協調の中でも、日本の最重要パートナーはアメリカである。失敗の恐れもある主要国間協調のリスクをヘッジするためにも、アメリカの存在は大きい。

 もう一つの主要国、中国の位置づけは難しい。中国自体が複合的な存在だからである。中国は日本にとり安全保障上の不安定要因であり、外交上のライバルである。国際テロなど超国家的な脅威に対する、あるいは経済上のパートナーでもある。  日本はリスク・ヘッジ外交と主要国協調外交との組み合わせによって、対中関係の安定化を目指すことが求められる。

 以上のような日本のグランド・ストラテジーを具体的に展開するためには、新しい政党政治システムの下での強力な国内基盤の確立が必要である。

 千年に一度とされる大震災にもかかわらず、日本社会の安定は保持された。 経済も何とか立ち直ろうとしている。  他方で混迷の度を深めているのが政治である。  政治家は政党の立場の違いを超えて、言葉に対する信頼の回復に努めなくてはならない。  私たち国民一人ひとりも、新しい日本の創造に参画する意思を持つべきである。(いのうえ としかず)